憲法学者・木村草太が各党の「改憲」マニフェストを読む〜いま最も危惧すべきポイントは?

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木村 草太 プロフィール

自民党の真の狙い

特に心配されるのが、2012年に、自民党が発表した「日本国憲法改正草案」だ。この草案がどんな国家を目指しているのかを法的に分析しようにも、あまりにも曖昧な文言が多くて、よくわからない部分が多い。

メディアからもしばしば「自民党改憲草案をどう思いますか」と取材を受けるが、正直に申し上げて、そもそも法的に真剣に検討すべきものには感じられない。気の合う仲間と楽しむために作成した同人誌のようなものにすぎず、それについて大手メディアが真剣に批評すべきレベルに達しているとは思えないのだ。

そうは言っても、国会の第一党たる自民党が自らの草案として公開しているのだから、「趣味でやっているだけだから、好きにさせてあげてはどうですか」というわけにもいかない。

そこで、この自民党改憲草案と現在の憲法との最大の違いを指摘するなら、「国民の義務の規定を増やそう」と提案していることだろう。

「義務が少しぐらい増えたから何なのだ」と感じる人もいるかもしれない。「権利には義務を伴う」というのはよく言われることで、私だって、「選挙権は、私利私欲のためではなく、より公共的な視点から何が良いかを考えて行使しましょう」と言っている。権利を行使するときには濫用してはいけない、公共のことを考えつつ行使しなければいけないというのは、当然のことだ。

しかし、憲法に義務を書き込むというのは、そうした当然のこと以上の意味を持ってしまう。つまり、憲法上の義務規定は、権利保障を解除する機能を持つのだ。

例えば、自民党憲法改正草案21条を見てみよう。そこにはこう書いてある。

【表現の自由】
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。

2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。

この規定は、基本的には、現在の憲法21条に「2項」を追加したものだ。たった2行ほどにすぎない2項だが、「公の秩序を尊重する義務」を定めたものといえる。この義務は、市民のデモ行進やメディアの報道の自由を、人に迷惑をかけるからという理由で制限することを正当化しかねない。