イギリスEU離脱の世界史的インパクト〜私たちが受け取るべき「2つの重大警告」

歴史はまた繰り返すのか?
笠原 敏彦 プロフィール

エリート主義の敗北

2つ目の警告は、「過半数民主主義の限界」と「エリート主義の敗北」である。

国民投票の結果は離脱支持51・89%、残留支持48・11%で、その差は4%にも満たない。EU離脱の是非という国家の進路を大きく変えるような決定が、1票でも半数を超えればよい過半数民主主義で下されることは何をもたらすのだろうか。

象徴的だったのは、投票日の翌24日、ロンドンの国会議事堂前で残留派の人々が掲げていたボードだ。そこには、「イギリス人であることが恥ずかしい」と書かれていた。

EU離脱をめぐる国民投票は様々な二項対立で説明されたが、その一つが「残留支持のエリート層と離脱支持の庶民層」という構図だった。

ボードの主張は、“理性的なエリート層”の“感情的な庶民層”への侮蔑を示したものとも受け止められ、投票結果がイギリス社会の分断を決定的にすることが深く懸念される。国民のほぼ半数が反対するEU離脱が社会を不安定化させることは間違いない。EU加盟問題が永久の決着をみたということにも決してならないだろう。

解体の危機すら指摘されるEU、欧州統合のプロジェクト自体がその証左である。

冷戦終結後に政治統合へ大きく舵を切り、現在のEUの基本条約となった1992年のマーストリヒト条約はそもそも、承認を求めるフランス国民投票ではわずか51%しか支持されていない。統合の旗振り役であるフランスで半数の支持しか得ていないにもかかわらず、エリート層が強引に推進してきたのが近年の統合プロジェクトの実態だ。

例えば、単一通貨ユーロの導入はその典型だろう。金融政策は加盟国で統一しながら、財政政策は各国でバラバラという構造は、大学の経済学の授業レベルの知識でさえ、「うまくいくはずがない」と判断できるものだろう。統合推進派は、そのユーロを輝かしい理想の象徴としてアピールしてきた。そして、そのユーロが今も、ギリシャのみならず、スペインやイタリアなどを緊縮財政で苦しめている。

イギリスの国民投票は、EUの政治家、エリートへの強烈なウェイクアップ・コールになった。離脱という結果が突きつけたことは、グローバリゼーションという大状況の下で、庶民層とエリート層では社会、世界が全く異なる「プリズム」を通して見えているということだ。

だから、キャメロン首相を始めとした残留派やオバマ米大統領、IMF(国際通貨基金)や世銀といったエスタブリュシュメント層がいくら離脱に伴う「経済的損失」や「国際的な地位の低下」を訴えても、キャンペーン戦略としては功を奏さなかったのである。