「イギリスさん出て行かないで!」
世界中が懇願する中で、イギリスは23日に実施した国民投票で欧州連合(EU)離脱という選択をした。
歴史は動いた。否、明らかに大きく後ずさりした。相互依存を強める世界において国境のない新たな統治モデルを追求するという歴史的な実験「ヨーロピアン・ドリーム」はその輝きを失ったのである。
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イギリス離脱が持つ意味を最もよく物語っていたのは、EUの事実上のリーダーであるメルケル独首相の記者会見での悲壮な表情だろう。
“イギリス国民の決定を残念に思う。欧州と欧州統合プロセスにとって今日は分水嶺となるだろう。我々は取り乱すことなく、冷静であらねばならない”
そう語ったメルケル首相自身が動揺していた。
EUは今、創設以来最大の危機にある。ほぼゼロ成長が続く経済、10%近い失業率、未解決のギリシャ債務危機、難民危機、続発するテロ、加盟各国で台頭するポピュリスト政党……。
イギリスの離脱はEUの遠心力を加速させ、EUが解体に向かうシナリオさえ排除されなくなった。「ベルリン=パリ=ロンドン」のトライアングルにより微妙に保たれてきたEUのパワーバランスは瓦解した。
欧州統合プロジェクトとは元々、知恵に長けたフランスが戦争責任のトラウマから脇役に徹するドイツの経済力を生かして牽引してきたプロジェクトだった。そこに現実主義・合理主義的なイギリスが途中参加し、EUの市場経済化や外交・安全保障面でイニシアチブを取ってきたという経緯がある。
ユーロ危機を契機に欧州の指導国となったドイツ。イギリスがいなくなれば、フランスの影響力低下とあいまって、ドイツの存在感ばかりが際立ってしまう。またしても、欧州につきまとう「ドイツ問題」という亡霊の登場である。