孫正義さん、あなたの気持ちはよく分かる!~社長を辞めるのって、実はこんなに難しいんです

中沢 光昭 プロフィール

だから「そんな理屈を堂々と言われるとは…」と周囲が面食らおうとも、自分本位の主張を(直接言うことはカッコ悪いとか恥ずかしいという気持ちがまだ残るので)屁理屈をこねて回りくどく言ったりします。

あるいは、「コミュニケーションが大事なんだ!」と言いながら自分は必死に情報格差を作って権力を保持しようとするような、言っていることと真逆の行動をしたりするのです。

普通の高齢者とは格が違うリーダー

そうした恰好悪い経営者が多い中、今回の孫社長の振る舞いは、これほど清々しいことはない、と私は思いました。

たとえば、孫さんのこんな発言です。

「創業者は往々にしてクレージーだ。いつまでも若く、まだまだやれると思っていたい。自ら経営の一線から引退する、いざその時期が近づくと、やっぱりもう少しやっていたいという欲望が出た」<大事な本音は隠さない>

「彼(ニケシュ・アローラ副社長)が一番の被害者だ。本当に僕は申し訳なく思っている。さらに髪が抜けた」<葛藤を笑いで表現して理解してもらう>

「(直近期に約80億円を支払ったアローラ氏の報酬水準について)グーグルにそのままいればソフトバンクが払っている程度の報酬はもらえた」<ケチくさくない>

毀誉褒貶はあれども、こんな清々しいリーダーについていきたいと思う人が着実に増えて、組織が大きくなってきたのも納得です。

世の中には、人事権を振り回したり情報操作をしたりすることだけで、権力を保持しようという残念なサラリーマン経営者・幹部がたくさんいます。そうしたタイプの人が部下や他人にカネを払うシーンは「手なずけたいから」あるいは「嫌われたくないから」「(自分の後ろめたいことの)口止め料の意味合い」などがほとんどです。

孫さんの場合は、そうした要因とは決定的に異なり、説明を求められたら徹底的に応じる覚悟のようなものも感じました。

孫さんは「最低5年、10年近くは社長のままいきたいというのが今回の決意だ」と述べたようですが、恐らく体か精神のどこかがおかしくなるまでは続けることでしょう(個人的にはそうするべきだと思っています)。

もちろん、「その時」には、グループ全体でゴタゴタが起こるように見えるでしょうし、学者やアナリストからは色々とガバナンス上の問題点の指摘が出てくるでしょう。

ただ、あの規模まで大きくなった会社には、優秀な人材がたくさんいるでしょうから、大した問題は起きないし、乗り越えられると私は思います。

わがままを貫き通しても構わない――孫さん本人はもちろん、周りの社員らもそれを認めたうえでの追放劇だったとすれば、それは、ソフトバンクがそこまで磐石な企業になったことの証なのかもしれません。

中沢光昭 企業再生をメインとした経営コンサルタント。経営者としても含めて破綻会社や業績低迷企業の再建・変革実績を多数持つ。また、高齢化に伴う第三 者への事業承継の受け手として事業会社も所有。著書に『好景気だからあなたはクビになる!』(扶桑社)、『経営計画はなぜうまくいかないのか?』 (Kindle版)などがある