孫正義さん、あなたの気持ちはよく分かる!~社長を辞めるのって、実はこんなに難しいんです

中沢 光昭 プロフィール

問題は、カネじゃないんだ

ここまでが孫さんの今の気持ちを想像してみた私の結論ですが、経営者が社長の座にしがみつく「要員」は、こればかりにとどまりません。

そこで、以下では多くの経営者が、社長の座にしがみつくメカニズムを考えてみることにしましょう。

まず、ゼロからカネを稼ぐことは大変難しいことですが、色々な要因によってはそれが予想よりも早く実現することもありえます。これに対し、「他人から人望を得る」ことには、必ず時間がかかるものなのです。ウルトラCは起こりえません。

ここで言う「人望」とは、カネや地位や権力によって、取引先や社員がついてくるといった話ではありません。そうではなく、身内である社員が(たまに具体的な議論で嫌な思いをすることはあっても)心のどこかで尊敬してくれている、惚れ込んでくれているような状態です。

何かの学説に基づいているわけではなく、あくまで経験による感覚ですが、人間には根本的に他人の人生に影響を与えることの欲が大なり小なり存在するものです。それは命令によって他人を動かすような支配欲だけでなく、命令しなくても他人が自発的に行動してくれる達成感への欲、と言った方がいいかしれません。

これを手放したくない、というのが実はかなり大きいのではないでしょうか。

平たく言えば仲間とか、チームといってもいいかもしれません。著者自身も、短期間で会社の業績を回復させた過程で経験がありますが、本当の意味で仲間が増えることで、一人ではできないことができるように思える機会が倍々ゲームになって膨らんでいくと、自分に無限の力を得たような高揚感があるものなのです。

しかも、こうした気持ちはうまくいく過程ではもちろん、うまくいかない局面においても同様です。大塚家具の父と娘の確執の一件でも、勝久氏の方が辞めるとなった時に「親父と娘がどっちが正しいかはわからないが、心中するなら親父の方としか考えられない」と言って一緒に去った古参幹部がいたようですが、そうした一言がどれだけのエネルギーとなるかは、経験者しかわからないものでしょう。

著者自身も、人員削減と固定給引下げの告知を直接大勢の前でした際に、目の間で泣いていた社員が、「それでも自分は頑張れると思いました」と後で言ってくれたことに精神的に救われた経験があります。