お前は大馬鹿野郎だ!「サラリーマン金太郎」を地でいく男が順風満帆のソニーを飛び出したワケ

島地勝彦×植山周一郎【第4回】
島地 勝彦 プロフィール

植山 それはアメリカのBBDOという広告代理店がぼくのところにやってきて「日本の広告代理店としてタイアップしたいから、植山さん、日本の責任者になってください」と誘われたの。そしたら今度はサンフランシスコのロゴタイプなんかをデザインする大きな会社のトップもぼくのところにやってきて「日本の新しいクライアントを開発して欲しい」いう。

ぼくはそのとき面白いなと感じたわけね。両方の会社をやりたい。それからソニーの仕事も続けたい。ぜんぶやるにはソニーを辞めて自分の会社を作るしかないと決心して、盛田さんのところに行ったわけ。

さすがは盛田さんだね。会長室に入るなり、「シュウ、お前、まさかソニーを辞めるんじゃないだろうな」とズバリ。ぼくはビックリして「会長、どうしてわかったんですか?」尋ねたら「お前の顔に書いてある」っていわれました。

盛田会長が「つまんねえなあ。お前みたいな面白いやつが辞めたらつまんねえ。で、なにをやるんだ?」と訊いてきたので、ぼくは「じつは世界最大の広告代理店と世界最大のブランディング会社からコンサルタントをやってくれといわれまして、どうしても挑戦してみたいんです」と正直に話しました。

「そうか、わかった。しばらくやってみろ。お前は一度いいだしたら聞かないだろうからな。よかろう。その代わり週に一度おれに会いにこい。給料はいまの5分の1くれてやる」
「ありがとうございます。もう1つお願いしてもいいですか」
「なんだ」
「ソニーの健康保険をそのままにしていただけませんでしょうか」
「お前は調子がいいやつだなあ。わかった。それも取り計らってやろう」

という感じで丸く納まりました。なんだか会長室を出るとき涙が湧いてきましたね。

帰りに廊下でバッタリ大賀社長と会ったんですが、「いま、会長に辞めるといってきました」というと、大賀さんが「馬鹿野郎! おれたちがこんなに面倒みてやっているのに、なにが不満なんだ」と怒られました。

「不満なんかこれっぽっちもありません。恵まれ過ぎて逆に怖いくらいです。このままソニーにいるとみなさんに可愛がられて、自分がスポイルされるような気がするんです。この際、植山周一郎として外に出て、サバイブ出来るかどうかためしてみたいんです」

なーんて、若気の至りで生意気なことをいっちゃったわけ。大賀さんは最後のこういいました。

「シュウ、絶対に後悔するぞ。ソニーにいたら安泰な人生を送れるのに。そのうちSONY USAへ行ってもらって帰ってきたら役員の道もあるというのに、お前は大馬鹿野郎だ!」

シマジ まあ、人生というのは恐ろしい冗談の連続だから、しょうがないよね。そこでソニーに残っていたら、いまをときめくドナルド・トランプにも会えなかったかもしれないしね。

植山 それもそうですね。大賀さんのいうように会社に残れば安泰だったかもしれない。でもぼくはいつも刺激的な道を選んじゃうんですよね。人生においては正解は1つじゃないんです。

〈了〉

植山周一郎 (うえやま・しゅういちろう)
1945年、静岡県生まれ。一橋大学商学部卒業、スタンフォード大学院S.E.P.修了。英国ソニー販売部長、ソニー本社宣伝部次長などを歴任した後、株式会社植山事務所を設立。翻訳、講演、テレビ番組の企画・司会などを手がける。ヴァージン・グループ顧問、サッチャー元英国首相の元日本代理人。現在は一橋大学非常勤講師として、グローバルビジネスをテーマに英語で講義を行うほか、企業での英語研修・海外ビジネスコンサルティング、講演活動も多く手がける。『ヴァージン―僕は世界を変えていく』(リチャード・ブランソン著)、『D.トランプ 破廉恥な履歴書』(ジョン・オドネル著)、『世界の一流から学んだ仕事の品格』など著書・翻訳書多数。「植山周一郎のグローバルサロン」http://www.ueyamaoffice.com/
島地勝彦 (しまじ・かつひこ) 1941年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。現在は、コラムニスト兼バーマンとして活躍中。『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ』(いずれも講談社)『バーカウンターは人生の勉強机である』(阪急コミュニケーションズ)『お洒落極道』(小学館)など著書多数。Webで「乗り移り人生相談」「Treatment & Grooming At Shimaji Salon」「Nespresso Break Time @Cafe de Shimaji」を連載中。最新刊『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』が好評発売中!

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