沢田が自戒する。
「品証部に一泡吹かせたい販売部と、否定はするもののなんらかの事実を隠蔽しているに違いない品証部の思惑が絡み合い、部同士の駆け引きにまで発展していくこの滑稽さ。官僚的な体質は、リコール隠しが発覚した三年前からまったく変わっていないではないか。
根拠のないエリート意識、都合が悪いことは改善するより隠蔽する。ホープ的中華思想というか、“ホープにあらずば人にあらず”といって憚らない傲岸不遜の資本集団の傘下にいて、不祥事が起きたからといって体質を変えることは確かに容易なことではないのだが」
またホープ銀行の調査役は、赤松運送の事件はホープ自動車のまたもやリコール隠しではないかと疑う。同時にホープ自動車の体質をこう見抜いていた。
「消費者心理からかけ離れた企業体質を持つこの会社に、果たして世の中で生き残っていくだけの価値があるのか」
「やるべきこともやらないで結果だけを求める経営陣の浅はかさ。毛並みのいいプリンスだかなんだか知らないが、何万人も社員がいて、この程度の役員しかいないのかと思うと情けなくなってくる」
さて、現実に戻ろう。
三菱自動車は燃費データの偽装発覚後の2016年5月12日、ライバルの日産自動車による2300億円超の出資を受け入れ、事実上、その傘下に入ることが発表された。三菱自動車の管理部門の幹部が苦渋の表情で言う。
「小説では社内にT会議という秘密会議が設けられ、そこでリコール隠蔽工作が謀られています。今回のうちの事件でも開発や製造といった生産の重要なセクションは、自分のところだけですべて話を収めていました。リコール隠しの原点はまったく同じです。
改革は口ばかりで、もっとも大事なことは隠蔽したまま、まったく手が付けられていなかったということです。
自分たちは別格だとグループ内しか見ずに、都合の悪いことは隠蔽する体質はそのままに、そこから抜け切らせることが出来なかったのが今回の事件の元凶だと思います」