三菱自動車、歪んだ「エリート意識」の末路〜10年前に書かれた池井戸潤『空飛ぶタイヤ』の洞察力がスゴい

「これほど怒りに駆られて書いた小説はない」
現代ビジネス編集部 プロフィール

見当違いなプライドと慢心

実はホープ自動車には3年前に不具合が生じながら監督官庁への報告を怠り、さらに販売店を通じてヤミ改修を続けていた“リコール隠し”の過去があった。

不正は内部告発で暴かれ、白日の下に晒され、財閥系の名門自動車会社のブランドが地に堕ちたのだ。

この時はグループのホープ重工、ホープ商事、ホープ銀行の支援で救済されたが、業績はその後も極度に低迷していた。だが、今度もホープ銀行を頼り資金融資を要請する。こうしたこれまでの姿に、ホープ銀行の営業本部の人間は、ホープ自動車が抱える根深い問題点をこう鋭く指摘する。

「ホープ重工という、日本を代表する重厚長大企業の車両部門から独立したのはかれこれ三十年も前のことだが、ホープ自動車はいまだ、親方企業の一部門であったプライドと慢心が捨てきれない」

さらに、

「本来なら背水の陣で経営改善に取り組むべきところなのに、いまひとつそれがピリッとしないのは、そうした慢心がホープ自動車社内に蔓延しているからではないか。

ホープ系企業は往々にして対企業取引に強みを発揮し、個人に弱い。ところが、一旦は消費者に向きかかったホープ自動車の方針もいつしかなし崩しにされ、いまではすっかり元の殿様商売に戻ってしまった。

企業相手なら、『我々はホープでござい』と胸を張っていればいいのかも知れない。だが、個人相手に財閥の威光をかざしてどうする」

傲岸不遜な"中華”思想

『空飛ぶタイヤ』では、ホープ自動車の「企業体質」について登場人物たちが厳しい目を向ける場面が他にも何度も出てくる。

ホープ自動車の顧客担当者・沢田は、会社がこの事件で何かを隠していることに気付き始め独自の調査を始める。ホープ自動車社内には、製造と品質保証担当の役員と幹部だけが出席する“T会議”といわれる秘密会議があった。そこで不具合の評価、いわゆる“リコールの隠蔽工作”が謀られていたことを知るのだった。