イギリス「EU離脱」問題、一発の“凶弾”は歴史の針路を変えるか? 国民投票直前レポート

女性国会議員殺害事件のインパクト
笠原 敏彦 プロフィール

イギリス国民が見せた感情の発露

警察官でさえ銃を携行しないイギリスで、政治家が銃撃されるという事件は極めて異例だ。

議会制民主主義、言論の自由を育んできたイギリスで起きた今回の事件や、アメリカ大統領選の「トランプ現象」周辺で起きている暴力的衝突は、急速なグローバル化が引き起こす諸問題に有効に対処できない「一国民主主義」の危機として深刻に受け止めるべきだろう。

国論を二分するような大きなテーマで、話し合いによる問題解決、事態打開への希望を失ったとき、そこに待ち受けているのは間違いなく暴力的な世界である。

犠牲になったコックス議員は名門ケンブリッジ大を卒業し、シリア難民問題など人道分野での活動に尽力。昨年の総選挙で労働党から下院議員に初当選し、政治指導者やメディアは「期待の新星」だったと振り返っている。

各地での哀悼の模様をテレビで見ていると、そのスケールは全く異なるものの、ダイアナ元皇太子妃が1997年にパリで交通事故死したときにイギリス国民が見せた感情の発露を思い起こす。

その劇的な死で偶像化された「国民のプリンセス」への哀悼のムーブメントは「ダイアナ現象」と呼ばれた。感情をあまり表に出さないはずのイギリス国民の多くが人前で号泣し、哀悼のバラの花束がロンドン中心部を埋め尽くした。

なぜ、こうした現象が起きたのか。イギリス人自身が驚き、長らく論議の的となったほどだ。その際、指摘された点の一つは、イギリス人は昔に比べて情緒的になっている、ということだった。

もし殺害事件が起きなかったら…

国民投票に話を戻すと、残留への同情票が生まれるとして、その規模がどの程度のものかということだろう。

事件の影に隠れてあまり注目されなかったが、事件当日の16日付のフィナンシャル・タイムズ(FT)紙に目を疑うような世論調査のまとめが出ていた。