「炎上」の研究〜ネットが生み出した名もなき”風紀委員”たちの正体

世間は息苦しくなるばかり
週刊現代 プロフィール

前述した熊本地震にともなう平子理沙の「ブログ炎上」のケースでも、山本氏の経験と同様の事実が分かっている。

平子は、あまりに執拗に繰り返される中傷コメントを不審に思い、書き込みの主を調査した。すると、「おなじIPアドレスで異常な数のコメントを書いてくる人が6名ほどいました。同じ人が、毎回名前を変え、あたかもたくさんの人から批判されている様に見せかけて、コメント欄に投稿している事が分かりました」(平子のブログより)という。

昨今では、何か事件が起きるたびに「ネット上の声」をテレビのワイドショーや新聞が引用し、まるでそれが「世論」であるかのように紹介されることも珍しくなくなった。だが、それは大きな勘違いだ、と言わざるをえないだろう。

満たされない人たち

さらに、山口氏らの研究では、炎上に参加しやすい人物像の一端も明らかになってきたという。

「炎上に加担する人には男性が多い、というのは直感的に納得できると思いますが、意外だったのは『年収が高い人』『子持ちの人』ほど、より炎上に参加する確率が高くなるということです。

なぜそうした、一見『満たされている』はずの人々が炎上に加わりやすいのかはまだ分かっていませんが、たとえば、主義主張がはっきりしている、子育てなどの炎上しやすい話題に敏感、といった理由が考えられます。あるいは、会社生活や子育てで溜まったストレスのはけ口なのかもしれません」(前出・山口氏)

前出の安田氏も、実際に炎上の参加者と顔を合わせたとき、その「本当の顔」に意外な思いを抱いたという。

「ネット上では暴言を書き連ねているのに、実際に会うと一流企業のそれなりの地位にいるサラリーマンなんです。おそらく、ネットの中でだけ汚い言葉を使い、一種のカタルシスを得ているのではないでしょうか。

私は、ネットは『貧者の核兵器』、それも経済的な貧者ではなく、精神的な貧者の核兵器であると考えています。日ごろの生活がうまくいっていない人でも、言葉ひとつで有名人や大企業を苦しませたり、引きずりおろすことができる。何かのきっかけでその快楽を知ってしまった一部の人が、他者を炎上させることにハマるのだと思います。

ただし、そうした快楽は、誰しもが突然ハマってしまう危険性もあります。今や多くの人が、ポケットの中のスマホを使って、いつでもどこでも炎上に加わることができるのですから」

「炎上」の原動力となっているのは、あくまでごく一握りの人々だ。その「ノイジー・マイノリティ」の意見が異常な影響力を持つところに、ネット社会の歪みが表れている。

「週刊現代」2016年6月25日号より