疲れているのは体じゃなくて「脳」だった! 最新科学が明かした疲労の正体、そして寿命の意味

通説をひっくり返す興奮の科学書3冊
熊谷 達也 プロフィール

寿命とは何か

疲れることなく働き続ける心臓とはいえ、いつかは停止する日がやってくる。多くの場合、その時が人間の寿命でもある。私たちに必ず訪れるその時に対して、心静かに思いを巡らせることができるのが人間にとって寿命とはなにかだ。

以前に読んで大変感銘を受けた『ゾウの時間 ネズミの時間』の著者、本川達雄氏の最新刊である。ナマコの研究で有名な(本書でも冒頭部分でナマコの生態が詳しく紹介されていて、これがまたすこぶる面白い)著者の、独特の視点で綴られる文章は、単なる科学の啓蒙に留まらず、詩的であると同時にどこか哲学的でもあり、読み進めている時間そのものが心地よい。

著者によれば、どんな動物も心臓が15億回打つと寿命を迎えるという。人間の場合はどうなのか計算してみると、41・5歳で心臓は保証期限切れになる。

よって、それ以後の私たちは医療の進歩によって生かされている人工生命体なのだという含蓄のある著者の主張には、思わずふむふむとうなずいてしまった。

一貫して著者は、時間をエネルギーで買っている現代社会と、それに急き立てられ、自己中心的に生きている(生きざるを得ない)現代人の日常を深く憂えている。そして最後に、本来は保証期限切れであるはずの老後を、どうしたら心豊かに過ごせるか、大切なヒントをさりげなく提示している。

読めば直ちに役立ちます! と必死になって訴えているような本が氾濫している今の世の中で、本書のように落ち着いて読める本は、実に貴重な存在である。

『週刊現代』2016年6月25日号