疲れているのは体じゃなくて「脳」だった! 最新科学が明かした疲労の正体、そして寿命の意味

通説をひっくり返す興奮の科学書3冊
熊谷 達也 プロフィール

ところで、自転車に乗って運動負荷をかければ心拍数が上がり、活性酸素も大いに発生するわけで、うーむ、これは困った問題であるな、としばし悩んだ。が、無視(読まなかったふり)をすることにした。

自転車をやめたら、ピーク時より15キロも減った体重が再び増加に転じるのは明らかだ。それがもたらす生活習慣病のほうが怖いと、自分に都合のよい理屈で、今後も自転車に乗り続けることにしたのである。

心臓はなぜ疲れないのか?

そんな些末な個人的葛藤のあとで手にしたのが『心臓の力』だ。1日に10万回も休むことなく(休んだら大変!)拍動し続ける心臓は、猛毒ともいえる活性酸素を大量に浴び続けているはずなのだが、なぜか致命的なダメージを受けずにすんでいる。あらためて考えてみれば、とても不可解なことだ。

実際、心臓の動きをコントロールしている自律神経、つまり交感神経(アクセル)と副交感神経(ブレーキ)の分布を比べると、圧倒的に交感神経のほうが多いという。アクセルの踏みっぱなしで過労死して当然の心臓なのだが、なぜそうならないのか。その謎を解明したのが著者の研究グループである。

ここで鍵となるのは副交感神経由来の神経伝達物質アセチルコリンなのだが、著者の研究グループによって、それまでの常識を打ち破る発見が成された。心臓の謎の解明に至るまでの過程は、優れた科学的発見が常にそうであるように、ミステリー小説を読んでいるような面白さがある。

本書は、著者の研究の核心部分だけでなく、骨格筋と心筋の違い、心臓が筋肉痛にならない理由、心臓はがんにならないのかという疑問への答えなど、心臓に関する基礎知識を学ぶにもうってつけの入門書となっている。