マル暴刑事が起こした警察史上最大級の不祥事!映画『日本で一番悪い奴ら』白石和彌監督インタビュー

しらいし・かずや/1974年北海道生まれ。若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。若松作品に助監督として参加する。2010年、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画デビューを果たす。'13年、『凶悪』で第38回報知映画賞監督賞、第35回ヨコハマ映画祭作品賞、第37回日本アカデミー賞優秀作品賞、優秀監督賞ほか数々の賞を受賞。

―どういう点に共感を覚えたのでしょうか。

僕は最初に若松孝二監督のところに入れてもらってこの映画界で生きていくことになったんですが、始めた当初は右も左もわからないけど、目の前にある映画の世界が僕の全てだったんです。

だから監督が撮りたい画のためだったらなんでもやる。たとえば許可が下りないような場所で監督がどうしても撮りたいと言えば、許可なしでも強引に撮影したりする。何か問題になったら僕が捕まればいいや、という妙な覚悟を持って。

当然ですけど、本来はやっちゃいけないことなんですね。でも監督から「やりたい」と言われればそれを全うするんです。そうしないと僕のキャリアが終わっちゃう。

映画が好きで、この世界に入れてもらえて、最高の映画を作るという芸術活動が人生のすべてである者にとって、許可のないところで撮影するというのは“正義”の行為のひとつなんです。

僕にとっての映画業界は、稲葉さんにとっての北海道警だったんじゃないのか。読みながらそんなことをひりひりと感じたんですよね。

あるマル暴の刑事さんに拳銃の押収について話を聞く機会があって、刑事ひとりあたりの生涯押収数って六、七丁だって教えてもらいました。稲葉さんはそれを百丁以上押収しちゃった、しかも不正に。その加速度感ってスゴいですよね(笑)。

映画のスタッフが許可なしで撮影することも、警察官が拳銃を不正に押収することも、是非を問われれば言うまでもないこと。そんなことは当事者だってわかりすぎるくらいわかっている。でもわかっちゃいるけどやめられない。

ある組織があって、組織独自の“正義”が醸成されて、所属する個人はその“正義”に抗えない。そこに人間だからこその何かを感じるんです。

稲葉さんも、道民の安全安心、道内の治安を守るという警察官としての初志は、最後まで捨てなかったと思うんです。だからその母体となる道警を守るために悪事に手を染めていった。

誤解を恐れずに言えば、稲葉さん、楽しかったと思いますよ。いや、犯罪行為をすることが楽しかったということではなくて、一生懸命になれた時間を楽しんでいたという意味です。やったことは無茶苦茶悪いことですけど(笑)。

―稲葉さんにはお会いになったとき、どう思いましたか。

最初は道警の機動隊に柔道特別訓練隊員として配属されたと本に書いてありましたから、耳がギョーザの格闘家タイプで、ガッツリ硬派な人かなと思いつつも、どこか謎めいていてイメージが湧きませんでした。

実際に会ったら、もちろん骨太な感じはあるんですが、ゴツいほどではない。どちらかというとシュッとしていて色気のある人でした。女の人からたくさんモテたと自分でも言っていて(笑)。

それに稲葉さんはすごいマメなんです。LINEの友だちになって、たとえば僕が確認のためにふと疑問に思ったことを送ると、いつも必ず1分以内に返信が来るんですよ、しかもスタンプ使って(笑)。ああ、こういう感じでモテていたんだなと納得しました。