牛丼チェーン「戦国時代」崩壊と繁栄のドラマ〜値下げ戦争、狂牛病ショック、ワンオペ…

村瀬 秀信 プロフィール

すき家「ワンオペ」の大打撃

奇しくもその年の9月。すき家が吉野家の店舗数を抜き、牛丼界の勢力図は塗り替えられる。すき家が天下人となったことに、BSEによる吉野家の凋落が影響したかは別とし、この頃、政権交代の決定的な流れとなる出来事があった。

すき家が店舗数で逆転した08年9月と同時期「8月28日の政変」とも呼びたくなる、同日から始まったすき家となか卯による『キン肉マン』とのコラボキャンペーン。

後に作者のゆでたまご氏が明らかにするところによると、このキャンペーンは、当初吉野家に話を持ち込んだがまとまらず、その後すき家が手を挙げたそうだ。経済的に考えれば屁のつっぱりにもならぬだろう。だが牛丼の精神性、そしてその後のすき家の躍進を考えると、この政変で"玉璽"がすき家に移動したと考えるのが自然だろう。

そんな追い風を受け、やることなすこと上手くいき「俺が天下に背こうと、天下が俺に背くことは許さん」とでも言いそうなペースで店舗を拡大していったすき家だが、2014年になって牛丼界の「赤壁の戦い」ともいえる大きな事件が起こる。

そのはじまりは孔明と周瑜……いや吉野家と松屋が互いの掌に「火」と書いたかどうかは知らないが、すき家の大部隊を崩壊に導いたのは「牛すき鍋定食」なるメニューの投入だった。

鍋を燃え盛る火にかけるという手間の掛かる定食は、すき家の店員にかかる負担が増大し、あっという間に人員不足が露呈。ネットでは店員がストライキを起こすと騒動になり、さらに孔明が東南の風を……起こすことはなかったが、深夜の一人店員制"ワンオペ"は「すき家は強盗しやすいから闇金業者にやれと言われた」と犯人が供述するほど、"盗難の風"に煽られる。

結果、すき家は"パワーアップ工事中"と掲げ、約250店舗が一時休業に追いこまれてしまう大打撃を被った。

そろそろページも尽きてきた。これは牛丼界の長い戦いの歴史のほんの一部。天下を望む三国は今も熾烈な戦いの中にある。続きはそれぞれの店舗にて。ご高覧賜り、真にありがとうございました。

村瀬秀信
1975年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。ライター、コラムニスト。近著に『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』『プロ野球最期の言葉』『アンソロジー 餃子』(共著)などがある。本書の元となった月刊誌「散歩の達人」(交通新聞社)でも、チェーン店の動向を引き続き連載中。6月30日(木)には、「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ・22:00〜24:55)に本テーマで出演予定。