70年ぶりに蘇ったヒトラーに共感!? 劣化する日本に通じる「不気味な恐ろしさ」の正体

辻田 真佐憲 プロフィール

軍事や歴史をネタにする危険性

昨今、日本では軍事や歴史をネタにした娯楽作品が少なくない。現実と虚構をない混ぜにしている点でも共通性がある。百田尚樹原作の『永遠の0』などは、その最大の成功例だろう。

ただし、軍事や歴史をネタにすることにはリスクも伴う。すでに述べたように、いかに虚構の物語だといっても、そこに登場する人物や物事が現実のものである以上、両者が混ざってしまう可能性は否定できないからだ。それが特定の歴史観に読者を誘うものであれば、なおのこと警戒が必要である。

たとえば、『永遠の0』では、神風特別攻撃隊の元隊員という、それ自体では傾聴すべき存在と、単なる作者のイデオロギーが実に巧妙に混ぜ合わされている。そのため、架空の特攻隊員が繰り出す戦後民主主義批判や、左翼マスコミ批判は、一般的な評論文以上の説得力を持ちえている。

このような現実と虚構の混合は、歴史上何度も行われてきたのであり、決して軽く見るべきではない。軍事や歴史のネタは、「取り扱い注意」なのである。

これに比べ、『帰ってきたヒトラー』は、軍事や歴史をネタにした娯楽作品でありながら、最後にはしっかりと不気味な恐ろしさを観客に与え、ヒトラーから距離を取らせてくれる。それゆえ、本作はきわめて稀有な存在なのである。かくのごとき作品が生まれ、ヒットし、正当に評価されるドイツに対しては、正直羨望の念を禁じえない。

ともあれ、本作は、軍事や歴史のネタ化が盛んな日本においても、話題を呼ぶ映画となるだろう。ぜひとも、劇場で鑑賞することをお薦めしたい。そして本作が、日本においても啓蒙的な作品として受容されることを願ってやまない。

辻田 真佐憲(つじた・まさのり)
1984年大阪府生まれ。文筆家、近現代史研究者。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科を経て、現在、政治と文化・娯楽の関係を中心に執筆活動を行う。単著に『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)、『ふしぎな君が代』(幻冬舎新書)、『日本の軍歌 国民的音楽の歴史』(幻冬舎新書)、『愛国とレコード 幻の大名古屋軍歌とアサヒ蓄音器商会』(えにし書房)などがある。監修CDに『日本の軍歌アーカイブス』(ビクターエンタテインメント)、『出征兵士を送る歌 これが軍歌だ!』(キングレコード)、『みんな輪になれ 軍国音頭の世界』(ぐらもくらぶ)などがある。