70年ぶりに蘇ったヒトラーに共感!? 劣化する日本に通じる「不気味な恐ろしさ」の正体

辻田 真佐憲 プロフィール
1930年代前半のヒトラー 〔photo〕gettyimages

本当の主人公はわれわれ観客だ

以上のように考えると、『帰ってきたヒトラー』の本当の主人公はヒトラーではなく、むしろわれわれ観客なのではないだろうか。

そもそも、自殺寸前のヒトラーは満身創痍だった。パーキンソン症候群で手は震え、慢性的な腸の痙攣にも悩まされていた。ところが、映画ではなぜか健康を回復し、1930年代のように精力的に活動できている。

これはご都合主義そのものだ。1945年から2014年(原作では2011年)へのタイムワープだって、荒唐無稽である。あくまでこのヒトラーは、われわれ観客に思考を迫るための舞台装置にすぎない。

これに対し、われわれ観客は、本作を薬にも毒にも変える力を持っている。単なる「ネタ」として消費して終わるのか。あるいは、ヒトラーの主張に同意してしまうのか。それとも、社会の啓蒙に役立てるのか。

映画館を出たあとも、この問題はついてまわる。いいかえれば、『帰ってきたヒトラー』は、劇場を出たときから本当にはじまる作品なのである。

したがって、本作は自分の目と耳で鑑賞しなければならない。本稿をここまで読んだからといって、「ネタバレ」を恐れる必要はない。本作にあっては、実際に体験することこそが重要だからだ。

われわれは、ヒトラーの素っ頓狂な振る舞いに大いに笑うだろう。そして最後に、なんともいえない恐ろしさを味わうだろう。そのゾッとする感じは、体験しなければ絶対にわからない。