被害総額2000億円!豊田商事「会長刺殺事件」の凄惨な結末

バブル前夜に起きた巨額詐欺事件
週刊現代 プロフィール

西村 民事不介入という理屈ですね。

永野を殺した二人には、懲役10年と8年の実刑判決が下されましたが、「詐欺事件を考慮した温情判決だ」と世間の議論を呼びました。しかも最後まで明確な殺害動機は、分からないままだった。

冨村 「殺害を指示した人物がいる」との臆測も流れましたが、結局は何も出てこなかった。証拠を見る限り、口封じ目的で永野を殺したとも考えられませんね。

吉岡 実は最初の頃、この詐欺事件の被害者は、マネーゲームに狂奔した、いわば「欲に目が眩んだ連中」だと思っていた。ところが裁判を傍聴して誤解だと気づいた。加害者の豊田商事側の人間は、ビシッとスーツ姿なのに、被害者側は、普通の主婦や、うらぶれた独居老人ばかりだったんです。

西村 被害者の中には、「あんないい人たちが、詐欺なんてするはずない」と信じ込んでいる人もいました。

冨村 それだけ巧妙な手口だったわけです。訪問先ではまず「お仏壇はどこですか?」と訊ね、「線香を上げさせてください」と言って、寂しい老人の話し相手をするんです。その後、「金は現金と同じで、しかも税金がかからない。絶対に値上がりする」と、セールストークを繰り返し顧客の脳裏に刷り込んでいく。そうやって金を買わせるんだけど、渡すのは証書だけで、金そのものは渡さないのです。

西村 普通に考えれば怪しいのに、誰も詐欺だと疑わなかった。

 

人間がカネに支配された時代

冨村 私は、永野が殺された翌年に大阪地検に異動し、この詐欺事件を担当することになるのですが、捜査は苦労の連続でした。従業員は7000人以上。全国には100もの支社があったのに、社員は蜘蛛の子を散らすように消えてしまった。

西村 実態は詐欺グループでありながら、それだけの規模にまで成長させた永野には、正直驚きました。

吉岡 事件の数日後に、永野の遺品を引き取った叔父の家を訪ねた時、驚く光景を目にしました。新聞に掲載された遺体写真が、床の間に飾られていたんです。聞けば「大人になってからの永野の写真がない」と言う。それを聞いて永野の人生に強い興味が湧きました。

西村 永野は岐阜県の生まれで、小学校卒業後に、母親の弟がいる島根県に預けられる。そこで中学校時代を過ごしていますよね。

吉岡 永野が生前暮らしたアパートや家を一軒一軒訪ねたんだけど、それが誰も彼のことを憶えていないんだよ。担任教師ですら覚えていない。これは不思議だったね。

西村 その存在感のなさが、彼の特徴だったのかもしれませんね。