世界的な評価を受ける日本画家が選ぶ「人生最高の10冊」〜芸術性を大飛躍させてくれたもの

本で同世代と知り結ばれて

ところが、そんな私にも40代で転機が訪れます。フランス・パリに渡り、アトリエを構えた。西洋に身を置いたことで、かえって伝統的な日本画の様式美や造形美に気づかされたのです。

結婚したのは、ちょうどそのころ。そのきっかけとなったのが、3位の『されどわれらが日々―』でした。

六全協によって挫折した学生たちの苦悩を描いた青春小説は、'64年に芥川賞を受賞して大ベストセラーとなり、われわれ世代のほとんどが一度は学生時代に夢中になった本でした。

妻とは、初対面のときに「あの本は面白かったね」と話題になったことから、すぐに同い年だと判り、たちまち意気投合。出逢いからわずか1週間で結婚を決めたのです。

2位の『金閣寺』は、京都の金閣寺から方丈の杉戸絵を依頼されたとき、本棚からひっぱりだして読み直した1冊です。

のちに水上勉も『金閣炎上』を書きましたが、圧倒的に三島のほうが面白かった。格調高く美しい文学作品には、彼の天才ぶりが存分に発揮されています。

1950年に実際に起こった放火事件をベースにして、三島は「美」に取りつかれた若き学僧の悲劇を描きました。

そういう観点から見てみると、4位の『野火』は、第二次世界大戦のレイテ島で極限状態に追い詰められた兵士を描いた作品。5位の『ひかりごけ』も、戦時中、真冬の知床沖の難破船内で起きた食人事件を題材にしています。

いずれも、事実を元にして、人間のどす黒い本性に迫り、書き手それぞれの手法で、文学に昇華させた作品ではないでしょうか。

こうした、実際に起きた事件や戦争から生まれた文学に惹かれてしまうのは、私の創作活動と、どこか共通項があるように感じられます。

花鳥風月を描くにしても、きれいな花をそのまま写生するのでは面白くない。花は、いつかは枯れる。そんな負の側面も含め、存在の本質に迫る作品を描きたいと思っているのです。

私のアトリエには一見、美術とは無関係の書籍が山積みになっていますが、そうした良質な書物が感性を刺激し、どんどんイメージを膨らませていってくれるのです。やはり人生に本は欠かせない存在ですよね。

(構成/増田明代)

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いしおどり・たつや/'45年旧満州生まれ。東京藝術大学大学院修了。伝統的な花鳥風月を現代的な視点でとらえた作風で知られる。その作風は「平成琳派」とも呼ばれ、国の内外で高い評価を得ている