イギリス「EU離脱」をめぐる大混乱の実情~「タブー」に触れ、怒鳴り合う政治家たち

戦争、ヒトラー、DIY不景気…
小林 恭子 プロフィール

「第3次世界大戦がはじまる?」

5月9日、キャメロン首相はEUによって欧州内の和解が進み、平和を維持してきた過去に「背を向けてはいけない。離脱は平和を乱す」と述べた。

離脱派のジョンソンがこれに少々色を付ける。「国民投票を推進したのはキャメロン首相だ。いざ投票となったら、離脱すれば第3次世界大戦が起きるとは、奇妙な話だ」と反論した。「第3次世界大戦」という大げさな言葉が人々の耳に残った。

同月15日、さらに表現がきつくなる。欧州に住む人にとって、第2次大戦と言えば忘れられないのがホロコーストを実行したヒトラーの存在だ。

テレグラフ紙によるインタビューの中で、ジョンソンはEUがヒトラーのように「パワフルな超国家を目指している」と述べた。「ナポレオン、ヒトラー、いろいろな人がやってみたがどれも悲劇的な結末で終わっている。EUは別のやり方でやろうとしているだけだ」。

EUとヒトラーを同一視したとも見られかねない表現は欧州では政治的にも社会的にも大きなタブーだが、こんな表現が出るまでになっている。

結局、どっちの数字が正しいのか?

残留か離脱かを決める際に重要となるのが、経済への影響だ。

残留派のオズボーン財務相は財務省による離脱の影響についての報告書をまとめ、5月23日、発表した。これによると、「離脱後、英国経済はすぐにかつ深遠な経済的衝撃を受ける」、「長期的には、一戸当たりの国内総生産(GDP)が2015年時の計算で4300ポンド低くなる」。

同日、キャメロン首相とオズボーン財務相はテレグラフ紙に寄稿した。離脱をすれば「今後2年間、GDPが3.6%下がる」と予測し、自らが景気後退を作ってしまう状態を「DIY不景気」と名付けた。実に覚えやすい表現だ。

離脱派は「信頼できない予測だ」と全面的に内容を否定した。先に発表された英中銀による負の影響の見立ても「中銀の景気予測はよく間違う」として、認めていない。

追い打ちをかけるように、25日、政府から独立した存在の「財政研究インスティテュート」(IFS)が、離脱によって短期的には国の財政が悪化し、今後1~2年は緊縮財政が続くという報告書(「ブレグジットと英国の国家財政」)を出すと、離脱派は「IFSはその活動費の一部をEUから得ている(だから信用できない)」と切り返した。

テレビのディベート番組でも離脱派と残留派のパネスリトや市民が同数出席しての議論となるため、最後は互いに怒鳴り合いに近い言葉が交わされる。