イギリス「EU離脱」をめぐる大混乱の実情~「タブー」に触れ、怒鳴り合う政治家たち

戦争、ヒトラー、DIY不景気…
小林 恭子 プロフィール

離脱派と残留派、それぞれの言い分

離脱派の中心人物は「離脱に投票を(ボート・リーブ)」運動を統括する、元ロンドン市長のボリス・ジョンソン議員、マイケル・ゴーブ司法相、元年金・福祉大臣のイアン・ダンカン・スミス議員。残留派はキャメロン首相、オズボーン財務相、第2野党となった自民党だ。

与党保守党の中で二派に分かれており、「ブルー・オン・ブルー」(青対青)の戦い、と言われている。青は保守党の政党色だ。

ジョンソン元ロンドン市長は次期首相候補の一人と言われている。国民投票に向けての選挙戦は、次期首相の座を狙うジョンソンとキャメロン首相との戦いという側面がある。

紙面をにぎわす元ロンドン市長のボリス・ジョンソン議員

離脱派は「英国の統治を国民の手に取り戻すこと」を主眼とする。選挙運動用バスの車体に「EUに払う毎週3億5000万ポンドを国民保健サービスや学校に使おう」と書き、全国を回りながら、いかに離脱によって英国民が利を得るかを遊説中だ。

残留派は国際的に名高い機関を味方につける。国際通貨基金(IMF)も経済協力開発機構(OECD)も英中銀(BOE)も「離脱すれば、経済的にマイナス」という見方を公表している。日本でも知名度が高い俳優ベネディクト・カンバーバッチやキーラ・ナイトレイなどの俳優たち数十人が残留支持を表明している。

情報が氾濫し、混乱する国民

残留派と離脱派の選挙運動が白熱化する中、情報の氾濫で国民の知識が豊富になったかというと、現実はその逆だ。残留派と離脱派が持ち出す数字やそのほかの情報の信頼性が今一つで、「誰を信じたらいいのか、分からない」状態となっている。

複数の世論調査では残留派と離脱派の支持者はほぼ同じ比率となっており、やや残留派がリード中。こう着状態を打破しようと躍起の政治家たちはこれでもか!というほどの強い言葉を選択し、国民をさらに袋小路に追い詰める。

議論が過熱化していった一つのきっかけは4月末のオバマ米大統領の訪英だ。大統領はEUの一員である英国を支持するとして、残留するかどうかは米国にとっても重要な問題であることを指摘。「多くの米兵が欧州の墓地で眠っている。私たちの繁栄と安全保障は分かちがたく結びついている」と全国紙デイリー・テレグラフの記事の中で書いた。

離脱支持者はオバマの発言に一斉に反発した。ジョンソン下院議員(当時はロンドン市長でもあった)はオバマの「介入」に対し、保守系大衆紙サンに寄稿した。

「半分はケニア人の大統領は大英帝国に対する長年の嫌悪感を持つ」とし、その証拠に大統領の執務室から第2次大戦時の英首相ウィンストン・チャーチルの胸像を「取り除いた」。記事の見出しは「英国がEUを離脱すれば英米はもっと良い友人になれる」だ。

オバマ大統領はケニア出身の父と白人米国人女性の母から生まれている。わざわざこの点を指摘した表現は人種差別的な印象を与えた。