イギリス「EU離脱」をめぐる大混乱の実情~「タブー」に触れ、怒鳴り合う政治家たち

戦争、ヒトラー、DIY不景気…
小林 恭子 プロフィール

生活者の不満をくみ上げられなかった

EUについての新たな国民投票を求める声が大きく高まったのは、2008年の世界金融危機以降だ。

その4年前、EUにポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキアなど旧東欧諸国10カ国が加盟している。これを受けて、医師、看護婦、大工、配管工、ウェイターなど、こうした国からやってきた人々が日常の生活空間に入ってきた。08年の金融危機で景気が悪化すると、「仕事を奪う」、「賃金水準を下げる」労働者として見なされるようになってゆく。

EU移民の流入は地方自治体のサービスを受ける住民や医療対象者の数、学校の生徒数も増やしてゆく。病院の診察予約が取りにくくなったり、役所の窓口が混雑したりなど、地域によってはそんな事例が出てきた。

EU市民は域内のどの国にも自由に行き来ができるため、流入するポーランドなどからの労働者を英政府は制御する手段を持っていない。

実体験に根差しての移民に対する国民の懸念を既存政党は十分に受け止めることができなかった。

欧州域内の平和を誓い、人、モノ、サービスの自由化を実現するという崇高なEUの理想を否定するのは「政治的に正しくない」し、移民に対する懸念=反移民は英国の政治家や知識人がその存在を認めたくない感情だからだ。英社会は外に開かれており、多様な文化を尊重する、人種や性別、価値観によって人は差別されない――これが英国の基本である「べき」だった。

政治上の隙間を突いて勢力を拡大したのが、英国のEUからの脱退を求める英国独立党(UKIP)だ。2014年の欧州議会選挙で大躍進を遂げ、英国に割り当てられた議席数の中で最大議席を獲得した。脱退支持派の政党が最大議席と言う非常に奇妙な現象だ。

UKIPの躍進を背景に、2010年から首相となった保守党党首デービッド・キャメロンは、党内の長年にわたるEU懐疑派の反乱を抑えるためもあって、「2015年の総選挙で、もし保守党単独政権が取れたら、EUから離脱するかどうかの国民投票を行う」と宣言した。これが2013年のことである。当時の政権は親EUの自由民主党との連立だった。

2015年、「どうせまた連立だろう」と思っていたキャメロン首相の目論見は外れた。保守党は圧勝し、国民投票実施への圧力がさらに高まった。当初は「2017年以内に」と言っていた国民投票を今年6月23日に前倒しする羽目となった。