日本人を苦しめる「一億総ランキング社会」という病

下り坂のこの国で大らかに生きるには?
週刊現代 プロフィール

内田 愛着がないどころか、彼らは文化を憎んでいるように見えます。橋下前市長は、大阪が世界に誇る伝統文化である文楽を、「カネにならない」という理由で執拗に攻撃していましたから。

平田 もうひとつは、今東京の大学に通っている学生たちは、ほとんど富裕層の子弟なんです。中高一貫校出身の子も圧倒的に多い。

その学生たちに、例えば授業でホームレス支援のことを話すと、関心を持つ子は多いんですが、実感がない。生まれてこのかた、周囲に貧乏な家の子が一人もいなかったからです。中には「ホームレスなんか自己責任でしょう」とあからさまに言う学生さえいます。

私はそういう学生に、どうにかして実感を持ってもらおうと、「子育て中のお母さんが、昼間に子供を保育所に預けて芝居や映画を観に行っても、後ろ指を指されない社会を作る」というスローガンを考え、今回の新刊でも中心に据えました。文化の格差が広がっていることも、深刻な問題として取り上げています。

内田 「身に付いた文化や教養の有無で所属する社会階層が決まる」という実感が、まだ日本人には乏しいのかもしれません。

英・仏のような階層社会では、階層ごとに身に付けている文化が違います。言葉づかいも服装も、マナーも趣味も違う。貧乏人が高尚な文化にアクセスすることは禁じられています。

パリのイスラム系移民の子供たちは、図書館も美術館も書店もないところで生まれ育つんです。文化を身に付ける機会そのものがないから、文芸や美術や音楽の才能があっても、それに気づくことさえできない。

日本もそんな階層社会に向かいつつあるということでしょう。貧困層を制度的に差別するのではなく、文化に触れる機会そのものを奪うことで、自動的に社会の最下層に釘付けにするような仕組みができつつあります。

平田 少子化が進み、恋愛が苦手な若者が増えていると言われて久しいですが、これも日本から文化が失われていることと関係があると思うんです。

最近、門外漢の私に「少子高齢化について何か話してくれ」と依頼する方が増えているのですが、私はいつも「『若者が減ったからスキー客が減った』と言うけれど、それは違う。『スキー客が減ったから若者が減った』のだ」という話をします。私たちの世代までは、スキーは若い男が女の子を一泊旅行に誘う格好の口実だった。これが減ったら当然、少子化は進みますよね。