135万部のベストセラー『嫌われる勇気』はこうして生まれた~構想16年、初版8000部からの挑戦

古賀史健, 上阪徹, 村上智子

目指したのは漫才の「ツッコミ」

古賀 「5年、10年、あるいはそれ以上、長く残る本をつくりたい」という思いが強かったからです。自分が本当に面白いと思えるもの、惚れ込めるテーマを見つけて取り組みたい。常々そうも考えていました。

上阪 なるほど。そう考えていた時に出会った惚れ込めるテーマが、「アドラー心理学」だったわけですね。

古賀 そうです。だから「今、ここでこれをやらなかったら、絶対一生後悔する」という思いで、賭けに行った感じですね。

上阪 とはいえ、伝えたいコンテンツとしては、すでに岸見先生の出された『アドラー心理学入門』があります。同じテーマを扱いながら、同じ著者の本を新しく出す。どんな本にしたいと思って作られたんですか?

古賀 「読んだ人に、“岸見先生の語るアドラー心理学”の面白さを分かってもらえる本」にしたいと思っていました。僕が「めちゃくちゃ面白い!」と思って読んだものが、多くの人にとってそうではなかった。それをなんとかしたい、このまま知られないのはもったいない。その思いが強かったですね。

上阪 たしかに、今でこそアドラー関連の書籍も多く出ていますが、2013年の段階では、日本ではほとんど知られていませんでした。『嫌われる勇気』は、今の「アドラーブーム」とでも言うべき状況の、火付け役です。その意味では、古賀さんの「なんとかたくさんの人に知ってもらいたい」という思いは、十分実現できたと言えるのではないでしょうか。

『嫌われる勇気』は、対話形式になっているのも特徴ですよね。「『哲人』のもとを訪ねた青年」があれこれ問いただすという設定で、二人の会話によって物語のように話が展開していく。どうしてこの形式で書かれたんですか?

古賀 この対話形式、対話篇と呼びますが、はじめは、この形式にするつもりではなかったのです。岸見先生の著書を、私がブックライターとして書く予定で取材を進めていました。

上阪 えっ、そうだったんですか。どの段階で、そんな大きな方向転換を?

古賀 取材が7割くらい進んだあたりですね。このまま書いても、『アドラー心理学入門』を超えるような圧倒的な面白さは出せないんじゃないかと思い始めて。

上阪 どうしてですか?

古賀 アドラー心理学は、ツッコミを入れたくなることが多いからです。今までのパラダイムで考えると、「そんなこと当たり前じゃないか」、「実現不可能な理想論を唱えているだけだ」と、どうしても疑問や反発が生まれてしまう。そう反応するであろう読者の気持ちをどう受け止めようかと考えた時に、漫才みたいなツッコミがあるといいんじゃないかと思って。

上阪 漫才ですか! なるほど。

古賀 漫才は、ツッコミが入ると「ここは笑うところなんだな」と分かりますよね。同じように、「ここはびっくりするところなんだな」、「ここは大事なところなんだな」と示すことで、理解を深める手助けになればと考えました。