あの田中角栄が惚れ込んだ
最強の官房長官「カミソリ後藤田」の素顔

いまの政界にこの人がいてくれたら
週刊現代 プロフィール

選挙に落ちてから変わった

武村 そのうえ細かいところまでよく見ている。僕がそれを感じたのは、リクルート事件後。金権政治批判が渦巻く中、後藤田さんの下で政治改革大綱をつくりました。

官僚時代、田中角栄先生の指揮で都市政策大綱をつくったこともありましたが、田中先生は勘所だけを押さえる。一方、後藤田さんは何もかも分かっている。こちらは指示に従って、怒られないよう努力していれば大綱ができあがるんです。

御厨 インタビューでも、「この件は、彼がああ書いているが、それは間違い」「あれも事実誤認だが、正確なところは分からないから君たちで調べてくれ」といった具合に、明晰に話していました。

後藤田さんは内務省から警察庁に移られましたが、インタビューでの正確を期すため、後輩である警察庁長官(インタビュー当時)に昔のメモを出させ、記憶を蘇らせていたみたいです。

大宅 政治家には、番組に出演してもモゴモゴするだけで、こちらが冷や汗をかくような人もいるのに。大違いですよ。

御厨 元警察庁長官ならではの「情報の出し方」も印象的でした。インタビューの時、話題が、「自分の頭にあること」「ないこと」「あってもしゃべりたくないこと」の3つに峻別されている。しゃべりたくないことについては、「その質問については、自分は深く承知していない」と言って、即座に「はい、次」。こちらが口を挟む余地を与えない。

そんなキレ者の後藤田さんですが、選挙だけは別だったみたいです。参議院選に出馬した'74年の初選挙では、落選のうえ、選挙違反で大量の逮捕者を出しました。

武村 あれは元警察庁長官が不正をした、悪質だということでずいぶん非難されました。

御厨 ご本人によれば、選挙事務所を開いたはいいが、誰も何も教えてくれない。そこにわけのわからない有象無象が「俺が何票持っている」なんて言ってきて、まるで統制がとれない。そういう「選挙屋」に弁当やカネを配って、そのまま選挙に突入したら、逮捕者が続出したというわけ。

「本当に俺は世の中を知らないと思った。俺が見てきたのは、せいぜい『制度の中の悪人』だけだった」と言っていました。「あいつら言葉巧みで、思わず俺も騙されたんだよ。まあでも、俺を騙せたんだから大したもんだ」って(笑)。