EU離脱か残留か、近づく審判の日
〜イギリスはなぜ「自傷行為」に向かうのか?

高まる反EU感情の由来
笠原 敏彦 プロフィール

問われるのは「戦後70年の欧州の歩み」

国民投票に向けたキャンペーンでは、残留派は主にEU共通市場を失うことの「損失」を強調し、離脱派は主権を取り戻すことで移民問題の解決を図り、巨額のEU拠出金(約85億ポンド=1兆3600億円)を取り戻すことなどをアピールしている。主な主張は次のようなものだ。

オズボーン財務相(残留派):「離脱すれば国民の家計を直撃する。各家庭は毎年4300ポンドの損失を被ることになるだろう」
ジョンソン前ロンドン市長(離脱派):「我々が目撃しているのはEUによる法的植民地化だ」「EUへの拠出金と主権を取り戻す」

世界第5位の経済規模を持ち、欧州最大の軍事力を持つイギリスが実際にEUを離脱した場合の影響については様々な警告がなされている。

経済開発協力機構(OECD)は、イギリスの2020年の国民総生産(GDP)は3.3%減少するという試算を打ち出している。イギリスの大手企業の経営者ら200人は連
名で「離脱はイギリスへの投資を妨げ、雇用を脅かす」と訴えている。国際通貨基金(IMF)は「欧州と世界の経済に深刻なダメージを与える」と警告している。イギリスに進出する日本企業は1000社に上るといい、そこへの影響も必至だろう。

さらに、2014年に独立の是非を問う住民投票を行ったスコットランドで再び独立機運が盛り上がるかもしれない。

EU側からも「イギリスなしではEUはより官僚的になり、欧州の安全保障も不安定になる」(ショイブレ独外相)という不安の声が漏れる。EUの市場経済化を推進してきたイギリスが抜ければ、EUの経済政策はより保守的になるだろう。

国民投票は、戦後70年の欧州の歩みを問うものでもある。

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イギリス政府関係者はこれまで「有権者はEU問題を感情的に考えていても、投票では現実主義的になり残留を選ぶだろう」と異口同音に話していたが、世論調査の結果を見る限り、全く予断を許さない情勢となっている。投票日までに大規模テロや難民危機が再燃すれば、有権者が一気に離脱に傾く可能性も排除されない。

投票日まで後40日ほど。国際社会は、国民投票の行方を固唾を呑んで見守ることになりそうだ。

笠原敏彦(かさはら・としひこ)
1959年福井市生まれ。東京外国語大学卒業。1985年毎日新聞社入社。京都支局、大阪本社特別報道部などを経て外信部へ。ロンドン特派員 (1997~2002年)として欧州情勢のほか、アフガニスタン戦争やユーゴ紛争などを長期取材。ワシントン特派員(2005~2008年)としてホワイ トハウス、国務省を担当し、ブッシュ大統領(当時)外遊に同行して20ヵ国を訪問。2009~2012年欧州総局長。滞英8年。現在、編集委員・紙面審査 委員。著書に『ふしぎなイギリス』がある。