EU離脱か残留か、近づく審判の日
〜イギリスはなぜ「自傷行為」に向かうのか?

高まる反EU感情の由来
笠原 敏彦 プロフィール

その判断には、EU残留か離脱かという大きな問題は国民投票などで明確に決着を付けなければ、問題が尾を引き続け、イギリスを不安定化させるという強い懸念があったはずだ。

そして、当時の首相には国民投票を無難に乗り切れるという皮算用があった。イギリスは1975年にEC離脱の是非を問う国民投票を実施しているが、この時は残留支持が67%だったという結果も残っている。

しかし、キャメロン首相のシナリオは大きく狂うことになる。その一因は、約100万人ものシリア難民らが欧州に押し寄せた昨年の難民危機と、過激組織「イスラム国(IS)」に関与するホームグローン(欧州生まれ)テロリストによるパリとブリュセルでの大規模なテロである。

これらの出来事は、「開かれた国境」という理想を掲げるEUの危機対処能力、統治能力の低さを白日の下にさらけ出した。その影響で、イギリスを含む欧州各国でポピュリズム政党の伸張に拍車がかかっていることはご承知の通りである。

近年、「民主主義の赤字」という言葉を耳にするが、その最たるものがEUの統治機構である。超国家組織であるEUでは、選挙の洗礼を受けていない官僚が巨大な権限を握り、政策やルールを決めている。イギリスのみならず加盟各国で以前から、非民主的なEUへの反発が強まっていたのが実情である。

現在のEUの混迷は、「民主主義の赤字」に有効な改善策を取ってこなかったことのつけだとも言えるだろう。

残留派の「弱み」

こうした事情を背景に、キャメロン首相も漠然と国民投票に臨んできた訳ではない。

先に首相の発言を引用したが、首相がイギリスの国益だと主張しているのは、あくまで「改革したEU」に残留することである。首相はこの「改革」に向けて2月にEUと交渉をまとめ、▽統合深化はイギリスに適用されない、▽緊急事態にはEU域内からの移民への社会保障を制限できる、▽規制緩和への努力、などの譲歩案をEUから引き出した。

キャメロン首相はこのEUからの譲歩を御旗に党内結束を図り、国民の支持を得ることを目論んでいたが、思惑通りには進んでいない。

譲歩案への評価は「現実には何も変わらない」などと芳しくなく、世論調査での残留支持に好影響を与えた様子はない。また、保守党の国会議員約330人のうち150人前後が離脱派に回り、その中には閣僚6人が含まれる。当初の予想を越える勢いが離脱派に生まれているのである。

そもそも、キャメロン首相が現在のEUを肯定できず、国民に「改革したEU」をアピールせざるを得ないことが、残留派の「弱み」を示していると言えるだろう。