EU離脱か残留か、近づく審判の日
〜イギリスはなぜ「自傷行為」に向かうのか?

高まる反EU感情の由来
笠原 敏彦 プロフィール

キャメロン首相を国民投票に向かわせた背景を簡潔に説明するなら、それは、イギリスが良くも悪くも、欧州の「異端国家」だと言うことである。

前回の拙稿現実味を帯びるイギリスの『EU離脱』という悪夢のシナリオ」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48471)では、タックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を暴露したパナマ文書でキャメロン首相の課税逃れ疑惑が浮上したことが離脱派に追い風となっていることを指摘した。国民の政治家不信を増幅させ、残留派の「顔」であるキャメロン首相の信頼を大きく低下させたからである。

イギリスの事情を国際潮流に位置づけるなら、アメリカ大統領選でも顕著な「孤立主義」「脱グローバリズム」「反エリート主義」と通底するものがある。

余談ではあるが、市場主義経済の普及により世界のグローバル化を牽引してきた米英両国、二つの“アングロサクソン国家”で政治・社会潮流が共鳴しているのは興味深い。コントロール不能になったグローバル化の激流が逆流し、その家元である両国の国家基盤を揺さぶっているという構図のように思えてならないからだ。

イギリス国内で急速に高まる「反EU感情」

キャメロン首相が国民投票を約束したのは2013年1月だった。

当時はユーロ危機と移民急増により、イギリス国内の反大陸欧州感情に火が付いたときだ。与党・保守党の欧州懐疑派はEU離脱の国民投票を求める動議を提出し、EU離脱と反移民を掲げる右翼政党「英国独立党(UKIP)」が党勢を拡大していた。

少々説明が必要なのは、イギリスにとっての移民・難民問題の核心とは、昨年欧州で噴出したシリア難民を中心とした難民危機とは別ものであるということだ。イギリスにとってより深刻なのは、EUが2000年代に入って中東欧へ拡大しことに伴って急増したEU域内からの「欧州移民」なのである。

ポーランドやルーマニアなどEU域内からイギリスへの移民は、2004年~2015年までの11年間で100万人から300万人へと3倍に増えた。

EUには国境を越えた自由移動の原則があるから、イギリスはこうした欧州移民を制限することができない。そして、欧州移民は自国民と平等に扱う義務がある。だから、移民と雇用や公共住宅の確保などで競合する労働者、低所得者階層を中心に、イギリスでは急速に反EU感情が高まってきたのである。