佐藤優が斬る「右肩下がりの時代」の病理〜三菱自動車はなぜあんな「不正」に走ったか?

佐藤 優 プロフィール

邦丸: 今、たまたまそういう節目に当たってしまったということなんでしょうか?

佐藤: 構造だと思います。

邦丸: 構造!

佐藤: 要するに、右肩下がりの時代になった。右肩が上がっていれば、普通に仕事をしていれば少しずつ給料が上がっていったし、成果を上げればガンと上がる。

しかし、今は一生懸命やっても給料は下がるし、将来退職金をもらえるかどうか、少なくとも額は減るし、企業年金もどうなるかわからない。国の年金もどうなるかわからない。みんな、不安だらけですよね。

こういう状況のときは、なかなか士気が上がらない。そんな時、上から「このデータを出せ」と言われて、「えーい、やっちまえ」というような感じになったんじゃないかなと想像できるわけですよ。ひと昔前なら、無理なものは「無理です」と言えた。

邦丸: そうですね。

佐藤: 東芝の場合も、なぜあれだけの会社があんな粉飾を行ったのか。「工夫しろ」とか「チャレンジしろ」とか言われてやったのは、やはり右肩下がりだからです。右肩が上がっていれば、あんなことしないでも大丈夫なわけですから。普通のやり方ではもう数字が出せないんですよ。その“無理”から生じたことだと思います。

邦丸: 右肩上がりの時は、こういうものを作った、これは売れるだろうというヴィジョンがありました。今はそういうものがありません。だから、今回で言えば、同じグループ内でも会社は違いますけれど、三菱重工もショックですよね。

佐藤: ショックだと思いますよ。「三菱」ブランドに対する誇りを持っていますからね。少なくとも、「こういうことを、しかも2度やるか。いったい、どうなっているんだ」──こういうふうに思うと思うんですよね。

でも逆に、自動車の人たちからすると、「そりゃ、重工はいいよ。国に言われた仕事だから。値段だって自分たちで決められるじゃないか。こっちは、市場の中で激しい叩き合いをやっているんだ」と、こういうような感じになってくる。それぞれの人たちがそれぞれの言い分を持っているわけです。

ただ、そこのところの判断をするのは、会社の論理や技師たち専門家集団の論理ではないんですね。判断するのは、最終的には国民の平均的な感覚なんですよ。

今から40年前だったら、クルマのカタログを見て、「すげえな。リッター60キロ走るのか。燃費が悪くても35キロは走るのか」と言っていたわけですよ。それは、まったく抵抗がない平らなところで走行実験したものなので、カタログ上の燃費なんて誰も信用しなかったですよね。

邦丸: はい。

佐藤: しかし今、そういう時代ではないんです。カタログには実態に近い数字を書く。やはり、そういう時代の変化を冷静に受け止めなければいけない。その辺がズレているんですね。

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol084(2016年5月11日号より)