鈴木敏文という天才——セブンイレブンのすべてをつくり、追われた男

その「才能」と「限界」を語り尽くす特別座談会
週刊現代 プロフィール

勝見: ただ、社外取締役も含め周囲から納得を得られる経営者が必ずしも正しいとは限りません。鈴木氏が周囲を納得させることばかり重視する経営者だったら、現在のような躍進はなかったと思います。

信田: 井阪氏の仕事ぶりは堅実で、社内での評判は悪くありません。鈴木会長には物足りなかったのかもしれませんが……。

いまやセブンイレブンは全国に1万8000店を展開する大企業で、成長期から安定期に入りました。お客の都合を優先することがなにより大切なのもわかりますが、会社の都合とのバランスを取っていかなければならない時代になっています。

井阪氏以前にも、有力な後継者だと見なされながら、鈴木氏に意見をして、刺し違えて社を去って行った人は何人もいます。鈴木氏は後継者を育てるタイプではなく、むしろ優秀な部下はつぶしにかかる。

その一方で、次男の康弘氏はホールディングスの取締役にまで出世しているので、社内では「なぜ、会長の次男ばかりが出世するのか」という声が出ていました。

潔い「引き際」

勝見: なるほど、結果として康弘氏が取締役になっていますが、敏文氏自身が明言しているように、息子を後継者としては見ていなかったと思います。彼は、決して嘘をつかない人ですし、私利私欲もない人。これといった趣味もなく、ゴルフもあくまで「運動のため」にやっているくらい。根っから実務に徹する仕事人間なんです。

信田: 正直なところ、私は最後まで鈴木氏の真意がどこにあるのかわからなかった。彼の指示に従って、自分がやってきたことが正しいかどうかもわかりません。

それでもFC会議で毎週のように叱られているうちに、鈴木イズムが体に染みつきましたし、それが今の仕事にもつながっています。鈴木氏が一線から退いたとしても、彼の経営方針がセブンイレブンの隅々にまで共有されているうちは、ちょっとやそっとで屋台骨は揺るがないでしょう。

磯山: 改めて言うまでもなく、鈴木氏は稀に見る偉大な経営者でした。独自の発想とスピード感で創造と破壊を繰り返し、コンビニという小売りの形態を極限にまで成長させた。しかし鈴木氏が引退した後、集団指導体制になれば、必然的に経営のスピード感はなくなっていくでしょう。やはり、後継者を育てられなかったことが経営者としての限界だった。

最後に付け加えるとすれば、鈴木氏はオーナーでなかったこともあって、スパッと辞めることができたのは会社にとっても、本人にとってもよかったと思います。今後、最高顧問といった肩書がつくかどうかわかりませんが、ダイエーの中内氏などと比べて、引き際が潔かった。特異な才能で流通の一時代を築いたカリスマにふさわしい去り方だったのではないでしょうか。

「週刊現代」2016年5月21日号より