鈴木敏文という天才——セブンイレブンのすべてをつくり、追われた男

その「才能」と「限界」を語り尽くす特別座談会
週刊現代 プロフィール

「過去のデータに頼るな!」

磯山: 具体的には、どのような話があったのですか?

信田: 例えば、「完売すること」の問題について。普通の店だと商品が完売したら、「よく売りきった」とほめられるのが普通ですが、セブンイレブンでは、「販売の機会損失、売り逃し」として「犯罪行為」にも等しいとみなされます。コンビニに来て、商品がないと、お客が味わう失望感はとても大きいのです。欠品の罪深さについては、毎回話が出ました。

それから、先ほども話が出た「過去のデータにとらわれないこと」の大切さ。ときどき鈴木氏は「前年のデータなんて消してしまえ」と、データをすべて消去してしまうんです。本来であれば、過去の売り上げの詰まったとても大切なデータなのですが、それにとらわれすぎていては、未来から見た斬新な発想ができなくなる。

実際、データを消すと、各店舗からの発注数が大幅に増えます。店側もたくさん仕入れれば、在庫を抱えないために一生懸命に売るようになる。

磯山: すごいショック療法ですね。あれほどの大きな流通組織で、前年比という発想を否定するのは、なかなかできるものではありません。鈴木氏はセブン&アイ・ホールディングスの創業家ではありませんが、実質的には創業者に近い大胆な経営を行っていたことがよくわかるエピソードです。

信田: イトーヨーカ堂の創業家は伊藤家ですが、セブンイレブンに関しては、実質的には鈴木氏が創業者みたいなものですからね。

火曜日のFC会議も、前日の売り上げの数字が少し悪かったりすると、月曜日の夜に急遽キャンセルになり、OFCたちには担当の店を回るよう指示が出ることもしばしばあって、急な予定変更に振り回されましたね。

鈴木氏は、部下たちと一緒に飲んで、話をするというようなこともいっさいしない人でしたね。それどころか挨拶もしない。私が勤めていた頃は、本社の9階に健康相談室というのがあって、そこで顔を合わせることが多かったのですが、こちらが挨拶しても、返事が返ってきたことは一度もありませんでした。

磯山: 周囲に説明のつかない大胆な決断というのは、社内にとどまらなかった。取引先との折衝も大変だったのではないでしょうか。

昨年には三井物産との取引を急に減らして、問題になったようですね。ローソンには三菱商事、ファミリーマートには伊藤忠というメインの取引先があって、セブンイレブンにとっては三井物産が重要な役割を果たしてきた。

信田: 三菱商事や伊藤忠に比べて、三井の商品調達力が弱かったことが気に入らなかったとも言われていますが、取り立てて落ち度があったわけでもなく、切られた理由はよくわかりません。

理由はともかく、年に数千億円規模の取引があった取引先を急に変えると言っても、他に対応できる会社など簡単に見つからない。結局、食品専門商社の国分グループと取引することになりましたが、この決定には相当大きな軋轢がありました。