中東で民主主義が定着しない「本当の理由」~イスラームをめぐる2つの問題について

末近 浩太 プロフィール

イスラーム主義者の政権を許さない国際社会

他方、もう1つの「イスラームに対する問題」は、イスラーム主義者の政治参加の是非についての問題である。

前述のように、中東の独裁体制においては、イスラーム主義者が民主化勢力を主導してきた歴史がある。そのため、ひとたび政変が起これば、その後の選挙で彼ら彼女らが躍進する現象がたびたび見られてきた。

2011年の「アラブの春」においては、チュニジアではナフダ党、エジプトでは自由公正党というイスラーム政党が政変後の選挙で勝利した。歴史を振り返ってみれば、アルジェリアのイスラーム解放戦線(FIS、1991年)、イラクのイラク・イスラーム・ダアワ党(2005年)、パレスチナ自治政府ではハマース(2006年)が、それぞれ国政選挙にて勝利を収めてきた。

しかし、民主的に選ばれたこれらの政権は、いずれもがイスラーム主義の伸張を危惧する国際社会による冷淡な仕打ちを受けることとなった。欧米諸国からの経済援助の停止や外交関係の凍結などが実施されたことで、イスラーム政党による執政は行き詰まり、その結果、内政の混乱や内戦といった事態がもたらされた。

国際社会は、これらの政権が民主的に成立したことを認めながらも、その後の政権運営が非民主的であるとの主張をしてきた。

ムスリムが実現を目指す「民主主義」

このような民主主義をめぐる「イスラームそのものの問題」と「イスラームに対する問題」の両者は、どうしたら解決することができるのか。

最も単純な解決法、そして、実際に何度も試みられてきたのは、中東諸国に自由主義と世俗主義を徹底させることであろう。西洋近代が培ってきた民主主義の移植と言い換えてもよい。そうすれば、政治にイスラームを持ち込む者もいなくなり、また、国際社会もその政治のあり方に「満足」するものと期待される。

しかし、「アラブの春」後の各国におけるイスラーム政党の躍進を見る限りにおいて、イスラームの教えや価値観を何らかのかたちで政治に反映することに賛同する人びとが社会に数多く存在することは明らかになっている。安易に彼ら彼女らの声を封殺するような政策は、それ自体が民主的ではないとも言える。

だとすれば、今日の世界が取り組まなければならない課題は、ムスリムが民主主義を受け入れるかどうかではなく、ムスリムがどのような民主主義を実現するのか、であろう。

実際、現代のムスリム論者のあいだでも、イスラームと民主主義の関係をめぐる議論は一大テーマとなってきた。

イスラームには民主主義に通底する考え方(たとえば、「合議」の教え)があるため、両者には矛盾はないと論じる立場が主流であるが、そのなかでも、それゆえに西洋的な民主主義を拒絶する立場と、イスラームとの折り合いをつけながら西洋的な民主主義を推進するべきとする立場に分かれる。

また、選挙に代表される民主主義の基礎となる制度だけを利用すべきとする限定的な立場をとる論者もいる。