ゼロからわかる「奨学金問題」~負担すべきは、国か、親か、本人か

対立する“3つの教育観”
小林 雅之

所得連動返還型奨学金と給付型奨学金

これに対して、給付型奨学金が最も望ましい学生への経済的支援の方法であることは言うまでもない。

しかし、給付型奨学金は財源が常に問題となる。それに対して、最近オーストラリアやイギリスあるいはアメリカが導入しているのが所得連動型ローン返済制度である。この制度は、奨学生本人の卒業後の所得が低いと返済額が低くなるため、返済の負担が少ないというのが最大のメリットである。

しかし、このことは裏を返せば、低所得層は返済額が低くなるため、生涯かけても返済総額を返済しないケースが出ることを意味する。つまり、所得連動返済型は、未返済(デフォルト)の可能性を内在している制度である。このため、この未返済額に対しては国庫負担が必要である。

日本でも3月、私が主査を務める文部科学省の所得連動返還型奨学金制度有識者会議は、日本学生支援機構第一種奨学金について「新たな所得連動返還型奨学金制度の創設について(第一次まとめ)」をとりまとめた。

この案は、図6のように課税所得がゼロ(年収約117万円)の場合には2,000円、それ以上の場合には課税所得の9%を返還年額とするというものだ。

最も奨学生数の多い私立自宅生の場合、従来の返還月額は、14,000円である。これが2,000円からと大幅に引き下げられる。年収約410万円までは、これまでの返還月額より低くなり、負担は大幅に軽減される。とりわけ20代、30代の若年層や非正規雇用者などは所得が低く、この制度の恩恵を受けることができる。

このように所得連動返還型は、所得が低い場合には、返還総額を返還しない場合があり、その点では、給付型の要素を持っているといっていい。しかし、現在さかんに俎上にのぼっている給付型奨学金は、所得連動返還型だけでは解決しない低所得層の進学を支援するための制度であり、似て非なるものである。

所得連動返済型は、卒業後の本人の所得によって、返済額が決定される。これに対して、給付型奨学金は、一般に進学時や在学時の経済的困難に対して支援するものであり、本人の家計(一般には親や保護者)の所得が基準となる。低所得層で貸与総額をすべて返還できなければ、その残額は実質的には給付型奨学金となる。

しかし、低所得層は所得連動型奨学金だけでは、高い学費と生活費すべてカバーできず、進学や生活が困難である。特に、貧困が深刻な生活保護やひとり親家庭、児童養護施設出身者あるいは家計急変者(親や保護者の死亡、リストラなど)などについては、所得連動型奨学金だけでは明らかに不十分であり、給付型奨学金が必要である。

しかし、給付型奨学金は、渡しきりになるため、納税者の理解を得ることが何より重要になる。とりわけ、誰が誰に支給するのか、つまり支給主体と受給主体を明確にする必要がある。そのためには、何のための奨学金か、その理念を明らかにすることが求められる。

現在、政府や各党で検討されている給付型奨学金では、それらをどこまで具体的に示すことができるかが問われているのである。

小林雅之(こばやし・まさゆき)
東京大学大学総合教育研究センター教授。東京大学大学院教育学研究科満期退学、博士(教育学)。日本学術振興会奨励研究員(東京大学教育学部)広島修道大学人文学部講師同助教授、放送大学教養学部助教授、東京大学大学総合教育研究センター助教授をへて現職。著書に『大学進学の機会』(東京大学出版会)、『進学格差』(筑摩書房)、『教育機会均等への挑戦』(東信堂、編著)など多数。