社員30万人の最強企業トヨタで「偉くなる人」の共通点

部長・役員はどう選ばれるのか?
井上 久男 プロフィール

役員は「上がり」ではない

こうして若手時代から常に力量を問われ、残った一部だけが役員昇格するわけだが、役員になれる人材の共通項もある。ざっくり言えば、部下のためを思って仕事は鬼軍曹のように厳しいが、いったん職場を離れると、気のいいおじさんで面倒見がいいという人物像。求める人材の方針が明確だからこそ、こうした「共通項」が生まれる。

トヨタの役員人事のもう一つの特徴は、役員になっても「上がり」ではなく、徹底的に鍛えられるというもの。

たとえば、今回の組織改編で本社部門の中に位置づけられた販売金融事業本部長の犬塚力常務役員は、人事の経験が長いが、今は門外漢の自動車ローンなどの金融担当。「人」と「カネ」が分かる役員に育てたいとの意図が見える。

 

実は今回のカンパニー制度導入という組織大改編には、このように人材をより徹底的に鍛えあげる狙いもある。

そもそも、今回の組織改編は極秘裏に準備され、役員でもごく一部にしか事前に知らされていなかったという。

「あまりに突然の組織改編で、役員人事は4月1日付だったのに、社内の経費伝票処理などのシステム変更が追い付かなかった。そのため、カンパニー制の導入は18日付となった」(大手部品メーカー幹部)

急遽3月2日に幹部が招集される「緊急部長会」が開催され、戦略を担当する寺師茂樹副社長が狙いをこう説明した。

「トヨタは身の丈を超えた成長ではなく、年輪的な経営を目指すビジョンを掲げているが、具体的な取り組みがまだ不十分。部門をまたぐ社内調整に終始することも多く、会議だらけで物事が進まない。競合企業に比べて開発のスピードも遅い。今回の組織改編は、組織を変えることが目的ではなく、仕事の進め方を変革するための基盤整備だと思ってください」

いまトヨタのトップマネジメントには強烈な危機感があり、それが今回の組織改編につながったというわけだ。

実際、20年以上トヨタを取材してきた筆者から見ると、今のトヨタは「外観」と、「内側」の実態が大きく乖離している。決算は過去最高益を3期連続で更新する見通しで、ライバルの独フォルクスワーゲンも排ガス処理の不正問題で自滅したため、「死角なし」と見られがちだが、実情は違う。