あなたの老親は大丈夫か?
急増する格安「無届け老人ホーム」の悲惨な実態

安さと引き換えに奪われるもの
長岡 美代

そもそも無届け施設の事業者はコンプライアンス(法令順守)への意識が低いので、スプリンクラーの設置などカネのかかることはやりたがらない。

2009年に10人の入居者が火災で犠牲となった無届け施設「静養ホームたまゆら」(群馬県渋川市、解散)は防火対策が不十分だったために甚大な被害を招いた。安さと引き換えに命を奪われては元も子もないだろう。

結局、カネ持ちが優先される

無届け施設の急増を受け、厚労省はこのほど、届け出指導を徹底するよう自治体に呼びかけたが、簡単なことではないようだ。

「有料老人ホームには部屋の広さや職員の資格要件などを規定したガイドラインがあるのですが、届け出に伴ってそれに従うよう指導されるのを嫌がられる。そのため『うちは部屋を貸しているだけ』『食事は入居者が勝手に契約している』と言い繕うところもあります」(某自治体の有料老人ホーム担当者)

国は見守り(緊急時対応)や生活相談が付いた「サービス付き高齢者向け住宅」を増やそうと民間事業者に建設費を助成するが、有料老人ホームにはそうした支援はない。近年、ようやくスプリンクラー設置に補助金が付いたくらいだ。無届けでも入居者が集まることもあって、「届け出に応じない事業者は少なくない」(同)。

一方の自治体側も届け出指導には労力も時間もかかるので、面倒に思いがちだ。そのため明らかに有料老人ホームであっても、「非該当施設」とみなして届け出指導の対象から外してしまうところもある。事業者にも自治体にも届け出のインセンティブが働きにくくなっている。

しかも入居費の安さから、介護が必要な生活保護受給者の受け皿として頼る自治体もあるため、「無届け施設は必要悪」という声さえ聞かれる。NHKなどマスコミはその対策として、「(公的な)特別養護老人ホーム(特養)を増やすべき」とステレオタイプな報道を繰り返すが、これはまったくの間違いだ。

恐らく「特養は安い」という固定観念があるからだろうが、いまは相部屋よりも、入居者を少人数にグループ分けした「ユニット型個室」が増えており、食費や介護費など込みで月14万~15万円程度はかかる。建設費の高騰で部屋代も高くなりがちだ。月20万円以上する例もある。

低所得者には負担軽減策が用意されているものの、支払い能力のある一般所得者に入居してもらった方が施設側は部屋代を高くとれるので都合がいい。特養の建設には多額の公費が使われているのに、カネ持ちが優先され、生活困窮者ほど入れないという実態もあるのだ。しかも2015年度から「要介護3」以上に入居が限定され、軽度者は入れなくなっている。