「超知性」が人類を滅ぼす日は来るのか〜欧米人が真正面から危惧している文化的理由

池田 純一 プロフィール

たとえば、AIといえばソフトウェアでありハードウェアとは峻別されるものと思いがちだが、ロボットという観点からするとその綺麗な二分法も怪しくなる。

先に記したDeep Learningのように、現在のAIは生物の脳を構成する神経回路網を参考に様々な工夫がなされているわけだが、その生体を参考にする視点に素直に従えば、脳とは神経細胞が頭部に密集している部位のことを名指しただけのものであり、実際には、神経回路網は脳以外の身体にも存在する(なにより脊髄がそうである)。身体操作を含むロボットという観点からすると、AIにはそのような疑問が生じる。

シャナハンの著書には、こうした開発者ならではの啓発的な指摘が随所に見られる。ロボット、AI、脳神経科学、シンギュラリティと、ハイテク界の最近のバズワードを、コンパクトながら網羅している点は、同書を際立たせている。

 荒唐無稽なシナリオ?

イギリスのスタータップであるDeepMindがGoogleに買収されたのが2014年であることからわかるように、英米圏では2010年代に入り、投資的視点からAIへの関心が再び高まっていた。

日本でも少し遅れて2015年にAIブーム、深層学習ブームが起きている。この1年ほどの間でAIに関する報道が豊富になされることで「シンギュラリティ」という言葉もすっかり人口に膾炙するようになった。とうとうレイ・カーツワイルの“The Singularity Is Near”の簡易版(『シンギュラリティは近い [エッセンス版]』)まで出版されるほどだ。

原書が出版された10年前からすれば、カーツワイルが予測する2045年のシンギュラリティの達成、それ以降の「超知性」の誕生による想定不能の未来の到来、というシナリオもそれほど奇異なものに聞こえなくなってきた。

2045年には後戻りできないインフレクション・ポイント(曲がり角)に達し、そこで断続的な、非線形な変化を経験するかもしれない、というシナリオであるにもかかわらずにだ。むしろ今では、今後のハイテク社会の未来を考える上での便利な参照点となった観すらある。

とはいえ、30年後の2045年には、今まで築いてきた人間社会のルールがそれ以降、一切通用しなくなるため、そこから先の未来を想定することは不可能となるというのだ。

簡単にいえば、人類の歴史は30年後に終わり、その先の世界ではSIが世界を掌握してしまう。どう考えても荒唐無稽なシナリオである。