芸能界における在日の最大のヒーローは誰でしょうか。私は1970年代、一世を風靡した松田優作を迷わず挙げます。
「太陽にほえろ!」のジーパン刑事、「探偵物語」のクールでニヒルな姿はいまも多くのファンに愛されています。優作はどこか陰のある役がよくハマる傾向がありましたが、それは彼の出自によるものだった可能性は大いにあります。
彼のルーツがはじめて公表されたのは、死から十年後、未亡人の松田美由紀がファンクラブの会報で明かしたのです。
優作は下関の遊郭で生まれ、非嫡出子であったことなどは、とくにてらいもなく明かしていました。しかし、自らが「金優作」であったことは、死ぬまで隠し通してきたのです。在日であることが知れたら、ファンは夢を裏切られた気持ちになる、という優作の悲痛な文章も残されています。
カミングアウトする新世代
在日のスターで、はじめてカミングアウトをしたのは、演歌歌手の都はるみでしょう。1969年、人気絶頂だったはるみの半生について母が語る『週刊平凡』の特集が組まれたのです。
周囲はその中で触れられたはるみの出自について異様な関心を寄せるようになります。そして7年後、『北の宿から』が日本レコード大賞の候補になると、「日本人じゃないのに、なんでやるんだ」といった悪意が一部のマスコミから発せられました。
このとき「いじめられてもがんばりなさいよ」と優しい声をかけたのは、かの美空ひばりです。都はるみはこのことを、
「同じような問題をかかえていたかどうかわからないが、励みになった」(『サンデー毎日』)
と、意味深に語ります。