佐藤優と学ぶ、目からウロコの「論理学入門」

社会人のための教養講座
佐藤 優 プロフィール

ここからは、文章の中に込められた論理だけでなく、文化などの「前提」が関わってくるので難しくなります。例えばこれ。

「テングタケは毒キノコだ。だから、食べられない」

この文章を読んで、おかしいと思う人は少ないでしょう。しかし、意地悪なことを言うようですが、暗黙の前提「毒キノコは食べられない」が本当かどうか分からない。実際にテングタケは、きちんと毒抜きをすれば食べられるそうです。

では、次の文章におかしな点はあるでしょうか。

「吠える犬は弱虫だ。うちのポチはよく吠える。だから、うちのポチは弱虫だ」

これは意外と難問です。「『吠える犬=弱虫』という図式は必ずしも成り立たないから、ポチは弱虫じゃない」という指摘も間違いではありませんが、もっと大きな論理の穴があります。それは「ポチは犬である」と、どこにも書いていないこと。もしかしたら、ポチは虎かもしれませんよ。

日常生活でこういうことばかり言っていると「屁理屈を言うな」と嫌われてしまいますが、あくまで論理力を鍛えるうえでは、こういう常識や前提を疑う力が大切です。

ここからは応用編です。

「日本の自動販売機は、商品を美味しく見せるための、メタクリレート樹脂でできた透明のカバーで、ショーウインドウのように覆われています。ところが、この美しい樹脂が自動販売機にそのまま使われているのは日本だけで、外国では使えません。なぜなら、メタクリレート樹脂はきれいですが、ハンマーで打ち壊せば簡単に砕けるからです」

……実は、これは排外主義的な言説です。「外国ならばどこでも、自動販売機は壊されて中身が盗まれる」、そして「日本では、そういうことはない」というのが暗黙の前提になっている。でも、本当にそうなのでしょうか。

「私は今年73歳になるオジンだが、脳梗塞、動脈硬化、白血病、前立腺癌、それに死を予告された末期の膀胱癌を抱えている。したがって本や新聞はいっさい読まない。テレビっ子である」

「したがって」とあるので、勢いで押し切られそうになりますが、大きな論理の飛躍がありますね。考えるべきは、この人がどんな暗黙の前提を抱いているのか。おそらく、こんな感じでしょう。

「余命いくばくもない私にとって、重要なのは今この瞬間だけだ。だから本や新聞のような、形に残り蓄積されてゆく情報は拒み、テレビのように、その瞬間に完全に消費できる情報に触れるべきだ」

論理学というと難しく思えますが、日常の言葉で翻訳すれば、なかなか面白いと思いませんか。