江戸時代の「絵画」をたよりに日本全国名所巡り!

『江戸諸國四十七景―名所絵を旅する』
鈴木 健一

知的に読み解く〈型〉の味わい

翻って、江戸時代においては、平和な時代が到来し、出版も発達したため、過去のさまざまな文化的な要素が整理・統合され、そこに〈並べられている〉ことになった。

それをどう組み合わせて、知的に高度な達成をなせるかが文化の担い手に問われていることになる。したがって、この時代の知的な営みを分析する際には、〈並べられている〉要素の組み合わせ方をどう評価するかが最も重要になる。

この本では、さきほども触れた各地の名所図会類や、他にも『山水奇観』『名山図会』といった、土地に関する図を集成した書物をしばしば参考にしている。このような書物も、土地の構図やその名物をカタログのようにして並べることを目指した刊行物であると言えるだろう。

こういったものが巷間に流布していたということによって、事物を並べて〈型〉を理解するという編集的な面白さを情報の送り手も受け手も共有することができたのである。

〈型〉自体は、古代から存在していた。『古今和歌集』が作り出した、梅と鶯という組み合わせや、桜が散ることを愛でる美意識、あるいは『平家物語』が生み出した、那須与一の扇の的、敦盛最期、壇ノ浦の平家滅亡といった物語のパターンなど、挙げればきりがない。

ただ、江戸時代にはそれが出版文化という回路によって浸透・流布していき、これまでより多くの人々が日常的・意識的に〈型〉を共有していたというところに特徴がある。

この本の中でも、「道成寺」の項で触れるように、桃太郎という〈型〉に則ったパロディに「道成寺」という〈型〉が加わって笑いが増幅されてくる。読者は、もちろんどちらも知っていて、「なるほど、そう組み合わせてきたのか!」と感歎するのである。

〈型〉への知識はただ受動的に吸収されるわけではない。読者が知的に読み解くことで、能動的にも発動するのである。そんな点も味わっていただければありがたい。

読書人の雑誌「本」2016年5月号より