江戸時代の「絵画」をたよりに日本全国名所巡り!

『江戸諸國四十七景―名所絵を旅する』
鈴木 健一

名所絵の風景には〈型〉がある

今回、講談社選書メチエの一冊として刊行した『江戸諸國四十七景―名所絵を旅する』は、この時代に出版された名所図会類をはじめとするさまざまな絵画情報の中に描かれる、日本全国の名所や名産品を見て、書物の中で名所巡りをすることを目的として執筆してみた。

北海道から沖縄まで一県につき一ヵ所、つまり全部で四十七の名所を巡ることになる。これらすべてを実際に訪れることはなかなか難しいので、せめて絵で味わっていただければという願いをこめて、名所を選んでみた。

また、江戸時代の絵であるから、たんに日本全国の地を訪問する空間の旅というだけではなく、時間旅行にもなっている。読者の方々には、江戸時代の絵から当時の文化や文学のありかたを知っていただいた上で、今日のありかたにも思いを馳せていただきたい。

たとえば、さきほど触れた箱根の様子は、秋里籬島が著した『東海道名所図会』(竹原春泉斎他画、寛政九年〈一七九七〉刊)の挿絵に描かれる

秋里籬島『東海道名所図会』「塔ノ沢温泉」の挿絵

ここは塔ノ沢温泉。画面中央の大きな木の左側、崖の上に設けられた座敷で初老の禿げた男が欄干にもたれてくつろいでいる。湯上がりなのだろう。右側には、浴槽につかる男たち、手前には、道中笠に道中羽織の旅人たちがいる。左下には、楊弓場の的や軍書講釈の幟(「講訳」とあるが「講釈」が正しい)が見える。

これらは温泉場の娯楽なのである。この絵一枚からだけでも、当時の箱根の温泉場としての価値は十分うかがい知れる。

ただし、たんに絵を並べて解説を付けるだけでは面白くない。この本では、私なりに一つの問題意識によって切り口を設定し、随所でそれを論証しようとつとめた。その問題意識を一言で述べれば、「風景には〈型〉がある」ということである。ある土地とその風景や関連する事物は無秩序にそこに置かれているわけではない。

今日でも、浅草と言えば、浅草寺の雷門があり、吾妻橋を渡ると黄金色に輝く物体が目を引くアサヒビールの愉快な建物があり、向島方面に東京スカイツリーが見える、というような〈型〉を多くの人々が共有し、それによって浅草の風景が認識されている。

水戸と言えば納豆、静岡と言えば蜜柑、というように名物も土地との関わりによって〈型〉となっている。