現実味を帯びるイギリス「EU離脱」という悪夢のシナリオ

パナマ文書で風向き激変!
笠原 敏彦 プロフィール

ロンドンのシティは、米ニューヨークのウォールストリートと並ぶ世界の二大金融センターであり、シティには約250の外国銀行が拠点を構える。シティの国際的地位の高さは、このタックスヘイブンを含む海外金融ネットワーク網と決して無関係ではないだろう。

パナマ文書の報道が始まって8日後の4月11日、キャメロン首相は議会で、バージン諸島やケイマン諸島が、現地で登録された法人の実質所有者に関する情報などを英捜査・税当局に開示することに合意した、と発表した。

これまで、海外領土や王族領の「自治」を理由に拒まれてきたとされる情報開示が、なぜ、急に可能になったのか。イギリスと海外領土、王族領との関係は実に不可解である。

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キャメロン氏の課税逃れ疑惑とEU国民投票への影響に話を戻そう。

国民投票に向けたキャンペーンは15日に正式スタートしたが、このタイミングに合わせるかのようにキャメロン氏の疑惑が浮上したことを受け、国際社会はイギリスのEU離脱という「悪夢のシナリオ」への懸念を強めている。

国際通貨基金(IMF)は12日に発表した世界経済見通しで、イギリスのEU離脱は「欧州と世界に深刻なダメージを与える」と警告している。フランスの有力紙ルモンドは「世界の目にはイギリスの離脱はEUの終わりと映るだろう」とまで書いているという。

EU離脱が現実味を帯びて語られ始めたのは、キャメロン首相が残留派の期待を一身に背負った「切り札」であるからだ。残留派には他に強い発信力を持った政治家が見当たらない。

それなのに、調査会社ユーガブが疑惑発覚後に行った世論調査では、EU離脱の是非をめぐる論議でキャメロン首相を信頼できると回答したのは、前回2月の調査から8ポイントも下がり、21%まで落ち込んでいる。残留派にとってはまさに、憂慮すべき事態なのである。

それでは、キャメロン首相はなぜ、この危険な国民投票を実施せざるを得ないのか。その背景と意味、結果が欧州、世界に与える影響については次稿で取り上げたい。

→続きはこちら「イギリスはなぜ"自傷行為"に向かうのか 高まる反EU感情の由来

笠原敏彦(かさはら・としひこ)
1959年福井市生まれ。東京外国語大学卒業。1985年毎日新聞社入社。京都支局、大阪本社特別報道部などを経て外信部へ。ロンドン特派員 (1997~2002年)として欧州情勢のほか、アフガニスタン戦争やユーゴ紛争などを長期取材。ワシントン特派員(2005~2008年)としてホワイ トハウス、国務省を担当し、ブッシュ大統領(当時)外遊に同行して20ヵ国を訪問。2009~2012年欧州総局長。滞英8年。現在、編集委員・紙面審査 委員。著書に『ふしぎなイギリス』がある。