野球の守備の「定位置」はナント思い込みだった!? ビッグデータが明かした真実

生島 淳 プロフィール

巨大な業界の暗部と闘う

偶然にも、同じピッツバーグを舞台にしたノンフィクションが『コンカッション』だ。

コンカッションとは、脳震盪のこと。主人公は戦乱が続くナイジェリアからアメリカン・ドリームを夢見て渡ってきたベネット・オマル。ピッツバーグで監察医となった彼はもともと鬱に苦しんでいたが、遺体安置所での仕事に心の安寧を見出す。

ある日、アメリカンフットボールの大スターだったマイク・ウェブスターの遺体が安置所に運ばれてくる。引退後、奇行で知られるようになった選手だ。オマルは彼を司法解剖し、脳に認知症患者に見られるような「しみ」を発見する。まだ、50歳だったというのに!

フットボールはヘルメットで頭蓋骨は守られているものの、脳は「頭部に強い衝撃が加わると、粘度の高いゼリーの中で動く」のだ。そして「頭を激しくぶつけると、脳はその衝撃を受けて頭蓋内壁にぶつかる」。それが繰り返されると、ダメージが蓄積し、40代から記憶喪失などの症状が現れてくる。

ウェブスターだけではなく、他の選手たちも引退後にトラブルを起こすことが多かったが、社会問題化はしなかった。統括団体であるNFLが競技と健康の因果関係を否定し続けていたからだ。このあたりの姿勢を作者は巨大タバコ産業になぞらえている。

第一発見者のオマルは、NFL側の反撃を受け、図らずも政治に巻き込まれていく。

アメリカのスポーツの暗部を生々しく書いたストーリーだ。スポーツにおける脳震盪の危険性についての認識は徐々に深まりつつあるが、この本を読むだけで、その恐ろしさは十二分に伝わってくる。

NFLは大学で鍛えられた選手をドラフトで獲得するが、アメリカでは学校に行かず、「ホームスクール」で学ぶ例が少なくない。

ホームスクールとは、小学校、中学校に通わずに自宅で学習することで、アメリカの全州で認められているが、『学校に通わず12歳までに6人が大学に入ったハーディング家の子育て』は、ホームスクールの実情が分かって興味深い(ちなみに日本の文部科学省は、義務教育を家庭で行うことを認めていない)。

私の友人の中にも、軍人一家のため転勤が多く、ホームスクールを選択した家族がいたが、根底には公教育への不信感がある。また、本書を読むと「キリスト教の価値観と合致しない」や「学校での銃乱射事件に巻き込まれないようにする」といった、いかにもアメリカ的な理由が存在していることも分かった。

ホームスクール否定派は「社会生活の機会を奪う」と批判するが、ハーディング家は「無駄な社交に時間を費やさなくて済む」と動じる気配はない。

親の労力も大変なものだが、子どもの教育を自由に選ぶ権利が保障されているのは羨ましい。その一方で、中学生の年齢で大学に通うことの違和感も覚える。年相応とは何なのか、中学に入ったわが家の息子を見ながら思ったりする。

『週刊現代』2016年4月30日号より