
文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
無残に散ったアゼリアの花
今年のマスターズは手に汗握る展開で面白かった。
選手たちの緊張と興奮を静かに見守っていたのはオーガスタに咲いていた赤、白、ピンクのアゼリアの花。今年のアゼリアはとても美しいと感じていたのだが、開幕前の水曜日に、ちょっぴり意外な話を耳にした。
クラブハウスのドアの前に立つ老齢のドアマンいわく、「今年のアゼリアは、ほんの少しだけピークが早まってしまった」。
いやいや、とてもきれいではありませんかと反論すると、ドアマン男性はこう言った。
「一見、美しい。だが、よく見ると、すでに満開をすぎて落ちそうになっている花がたくさんある」
その日の夜、激しい雨が降った。そして初日の朝、開き切ったアゼリアの花々が雨に打たれて地面の上にたくさん落ちていた。
ほんの少しだけ早く咲いてしまった花は、肝心なときに最高の姿を見せることができず、散ってしまった。だが、つぼみが開きかけた花は、雨にも負けずしっかり残り、これから始まる戦いに、文字通り、花を添えようとしていた。
マスターズが終わり、その余韻に浸る今になって、このアゼリアの話を思い出した。最高の状態でマスターズウィークを迎えたいと願いながら、ほんの少しだけピークが早まり、無残に散ったアゼリアの花。
それが、マスターズ2連覇に王手をかけながら涙でオーガスタを去る結果になったジョーダン・スピースを象徴しているように思えてならない。
