この国に静かに忍び寄る「団塊世代の貧困」という大問題

まず現実を直視したい
藤田孝典, 鎌田靖

月に一度お風呂に入れれば「中流」なのか

藤田 私が『貧困世代』で取り上げたのは、若者の貧困について、です。私が支援してきた若者のなかには、一日わずか260円の食費で生活しなければならないといった女性や、所持金を13円しか持ち合わせていない男性がいました。

貧困は、若者にも迫り、高齢者にも迫り、さらには非正規雇用の割合が多いといわれる団塊ジュニア世代にも迫っている――。改めて、日本が「一億総中流社会」ではなくなったことに気づかされます。

この状況改善に一刻も早く取り組まなければならないのですが、大変悩ましいことが二つあります。一つ目は、明らかに生活は苦しいにもかかわらず、「自分はまだ中流だ」という意識を持っている人が多く、SOSの声を自ら上げようとはしないことです。

たとえば私が会ったある高齢者は、光熱費が払えなくて、本当は毎日お風呂に入りたいんだけれども、月に1、2回しか入れないという状況にありました。これは、明らかに支援が必要なレベルです。

ところが「月に1回お風呂を沸かせるんだから、私は中流だ」という意識を持っているので、積極的に助けを求めないんです。「中流」のレベルを自分で下げて、貧困だとは思わないようにしている。

実際、いまでも「あなたはどの階層にいますか」と尋ねると、ほぼ9割が「中流」と答えます。ところが、所得のデータをみると、格差ははっきりと表れていて、中流といえるほどの所得がある層は3割、多くても4割しかない。まずは、自分たちが貧困状態にあると認識して、「苦しい」という声を上げなければ、その状況を変えることは難しい――そのことに気づいてほしいのですが。

鎌田 同感です。団塊世代の貧困の取材の中で、毎月家計が赤字で、取り崩す貯金も底が見えてきた、という方がいました。スタッフが心配して「このままだと、大変なことになりますよ」と言うんですが、「分かってはいるんだけど…」と返すだけなんです。もしかすると、自分が貧困状態にある、ということを認めたくない気持ちもあるのではないか…そう思ったりもします。

番組を通じて、「貧困に苦しむ人はかわいそうだね」ではなく、「あれ、もしかしたら自分もこうなる可能性があるぞ」と気づく人がいるかもしれないのです。そのために、貧困をひとくくりにするのではなく、「若者」「老後」「団塊」のように、世代ごと、あるいはテーマを分けて番組を作る必要があると思っています。