羽生結弦が『情熱大陸』の「感動の文法」にハマらなかった理由

森田 浩之 プロフィール
〔PHOTO〕gettyimages

『情熱大陸』の売りは、なんといっても「密着取材」である。その点は今回も、きちんとこなされていたようにみえる。

番組のカメラは、いつもならメディアが入らない場所にしっかり入っていた。大阪でのアイスショーの控え室、移動の車の中、世界選手権が行われたボストンのホテルの部屋……(ただし映像を見ると、「異例の3カ月密着」とうたわれていても、実際に取材が許されていたのは1月の大阪でのアイスショーと、3月下旬からの世界選手権に向けたトロントでのトレーニング、続くボストンでの大会本番という2回だけの限られた日程だったという見方もできる)。

カメラはふだんなら見られない羽生の「素顔」もとらえていた。練習で演技がうまくいかず、「くっそー」と叫ぶ羽生。アイスショーの直前に後輩の宇野昌磨を気づかって、Tシャツ姿の彼に自分の着ている上着を脱いで貸す羽生。控え室で織田信成とじゃれ合い、体をのけぞらせて爆笑する羽生。

もちろん、羽生の素晴らしいコメントもたくさんあった。以前の記事で私は、羽生がいかに「メディアジェニック(mediagenic)」なアスリートであるかを分析した。「メディアジェニック」は「メディア映えする」といった意味の英語だが、羽生のメディア対応力はこれまでのアスリートのなかでも並みはずれている。

その彼が『情熱大陸』で口にする言葉が面白くないはずはない。たとえば、こんな具合だ。

「そうですねー、孤独ですよ、ホントに。まわりの環境っていうのが、自分の精神状態や肉体をすごく左右してくるから、それを遮断しないと自分が思っているパフォーマンスができない。ある意味で孤独にさせてもらいたい、むしろ」

 

――自分って強い人間ですか?

「弱いです。めちゃくちゃ弱いです。弱いからこそ、そこで遮断しないとできないんですよ。強ければ、まわりが何を言おうと、まわりがどんな環境であろうと、関係なく自分をつくり出せると思うんですよ。自分がつくり出せない理由は、たぶん弱いからだと思うんですね」

――つらいときはどうやって乗り越える?

「あー、もう乗り越えようとしないです。つらいものはつらい、認めちゃう。つらいからもうやりたくないんだったら、やめればいいし。それでいいと思ってます、僕は」