作家・梶よう子さんの「人生最高の小説10選」

妄想を喚起させる読書の魅力

選書に他意はありません!

私、あまり女性作家の作品は読んでこなかったんですけど、3位に挙げた宇江佐真理さんの『幻の声』を読んだときは衝撃を受けたんです。

まず、宇江佐さんが駆使する江戸弁が、とっても気持ちよかった。そして、この作品では登場人物が幸せを求めつつ、生きる厳しさに直面する。

主人公の伊三次は店を持たない廻り髪結いですが、店を持つために一生懸命貯めたお金を盗られてしまう。伊三次が仕える同心の妻も、決して幸せな人生ではない。庶民の辛さや苦しさをストレートに描いているから、人情話が光るんです。

たとえば備後表を編む名人のお婆さんの話。お婆さんはそれはきれいな畳を作るけれど、武家屋敷に敷かれた自分の畳の様子を見ることはできない。伊三次のおかげで敷きつめられた自分の畳を初めて見るんですが、もう死ぬまでそんな機会は二度とないんですよね。このシーンは、ほんとに泣けました。

時代小説以外では、7位の『トーマの心臓』。読んだのは14歳の頃ですが、全寮制の男子校が舞台というだけで乙女の私はキュンときた(笑)。トーマの死というミステリーを核に、愛に苦悩する思春期の男の子の姿や、自己肯定ができない闇を抱えた少年が心を開いていく過程を描いた、とても奥深い作品です。

そして、8位の『大いなる助走』。私が中学生だった頃は、日本SF小説の黄金時代。当時から活躍されていた方々の中でも、私はとくに筒井康隆さんが大好きでした。高校時代は音楽を聴きながら筒井さんの本を読んでばかりいて、勉強した記憶がほとんどない(笑)。

で、この作品は、私が作家になろうなんて微塵も思っていなかった、その10代後半に読んだんです。何度もノミネートされながら直木賞が取れなかった筒井さんですが、『大いなる~』では賞を取るため編集者や選考委員たちに翻弄され、すべてを捧げた挙句、裏切られた作家が選考委員を血祭りにあげていきます(笑)。

文壇と文学の世界の暗い部分が、ブラックユーモアとともに余すところなく描かれていたので、「ここまで書いて大丈夫なの、筒井さん!」と、いちファンとして心配になりました。繰り返しますが、私が作家として某賞にノミネートされる何十年も前の話ですよ!

私にとって、物語の中で妄想や空想を巡らせ、その世界で遊べるのが読書の一番の楽しみ。これからも本を通して様々なことを学んでいくと思います。

(構成/大西展子)

▲最近読んだ一冊

かじ・ようこ/フリーライターのかたわら小説執筆を始め、'05年『い草の花』で九州さが大衆文学賞受賞、'08年『一朝の夢』で松本清張賞を受賞し単行本デビュー。'16年『ヨイ豊』で第154回直木賞候補