エキナカ登場で消える立ち食い蕎麦、
大宮駅と鉄道博物館を訪ねて

鉄道とビジネス vol.1

 過日、原武史氏と、大宮の鉄道博物館に行った。

 遊園地めいたシャトルは、可愛かったが、博物館の方は、気の抜けたもので正直がっかりさせられた。

鉄道博物館 平成十九年の鉄道の日(十月十四日)にオープン。昨年十月に入館者が三百万人を突破

 たしかにスペースはたっぷりしているが、展示は全般的に投げやり、というより散漫なもので万世橋の交通博物館の充実ぶり、熱気からすれば、どこか寒々としたものを感じざるを得なかった。

 交通博物館は、船舶や航空機などの展示もふんだんにあったし、研究者向けの資料、写真の貸し出しも行われていたから、現在の鉄道を主体とする博物館とはだいぶ性格が違うのだけれど、それでも何か、当てがはずれたような、裏切られたような、寂しい感じを抱かないではなかった。

 手狭だった万世橋に比べると広い。御料車が並べられているコーナーが顕著に示しているように、以前より距離をとって見る事が出来るようになったのは確かだ。

 だから、収蔵品で溢れかえっていたような万世橋に比べれば観賞には適していると云う事はできるのだろう。けれども解説の文章はどこか素っ気なく、進んで見せよう、知って貰いたい、理解して貰いたいという情熱は伝わってこない。鉄道マニアの間では、「でっかいだけの車庫」という定評があるそうな。

 入場料は、大人千円で大宮駅からのシャトルの往復料金も別にかかる事を考えると、かなり高いと感じざるを得ない。

 シミュレーターも含めて、新しい展示はほとんどなく、使い回しという印象を拭い難い。ちょうど、冬期の降雪にかかわる特別展示が行われていたのだが、雪に関する理科の教科書から、抜き書きしたような、ごくごく一般的な解説のかたわらに、JR職員の制服を着せられたマネキン人形が、金属製の雪かきを押すポーズをとらせられている。

手抜きと評するのも馬鹿馬鹿しい展示の傍らに、かつて何度も万世橋でみた、除雪車の模型が三台ほど並べてある。模型はそれぞれ、きわめて丁寧につくり込まれていて、内部の構造が見えるように工夫されている。その情熱、誠実は、懐かしくまた、自然と敬意が湧いてくる。

客と店の間の絶妙のグルーヴ

 帰路、大宮駅の構内を歩いていて、ここにもecuteがあることに気がついた。

 「ここにも」と云うのは、修辞的には誤りで、実際には、大宮がecuteの第一号店なのであった。

 私は、平生、品川駅を使うことが多いので、ついついecuteといえば品川だと思っていたのだが、実際には売り上げにしても、大宮の方が多いのだという。平成二十一年春の時点で、大宮が約百億円、品川が七十三億円だという(「江越弘一 JR東日本ステーションリテイリング社長に聞く」『月刊BOSS』平成二十一年三月号)。

 品川の場合、海側にかなり大きいDEAN & DELUCAがあるし、クイーンズ伊勢丹もあるので、酒食についてはあまりecuteを使うことはないのだけれど、二階のインド料理店、シターラダイナーは有り難い。

 品川付近は、カレー、インド料理の不毛地帯で―田町方面にかなり歩くと名店デヴィコーナーがあるけれど、あとは絶対水を呑ませてくれない有名店か、品川プリンスの一番奥のテニスコート横のカレー店になる―、ちゃんとしたカレーにありつくのは難しかったので、構内でありつけるのは嬉しい・・・。

 というような話をしていたら、「前は、大宮駅は、ほとんどのホームに、立ち食い蕎麦屋があったんですよ」と原さんが語りだした。

「それぞれ、一軒ずつ、味も風情も違っていて。カウンター沿いに二重の列が出来るような、繁盛店もあったんですけどね。それがエキナカが出来て、跡形もなくなってしまった」

 品川駅についていえば、構内と、山手線、横須賀線のホームなどに、老舗の常盤軒が頑張っている。ただ、構内の店に関しては―印象としてだが―、十分の一ぐらいのスペースになってしまったような気がする。

 往時の常盤軒の迫力はたいしたものだった。大きな木のカウンターに、次々と客が押し寄せ、天麩羅蕎麦、うどんを注文し、生卵をおとしてもらい、支払いをして、釣りをうけとり、おのおのの場所に行くまで、三十秒とかからない。客と店の間に、ある種の絶妙の呼吸というか、コール&レスポンス的なグルーヴがあって、高校生の頃にはかなり戸惑った覚えがある。

 今も、構内の常盤軒には独特の熱気があって、隣接するJR系の蕎麦店が足元にも及ばない雰囲気、熱気を醸しているが、それでもスペースが収縮した傷は深い。

 かつては機動的だった客の動線が、空間の制限により混線してしまい、カウンターから蕎麦を受け取った後、テーブル・スペースを確保するのに苦労する場合もある。蕎麦を抱えた客同士が、場所を取り合ったり譲り合ったりする。

 とはいえ、それでも、大宮の事を考えれば、こうして常盤軒の天麩羅蕎麦を食べる事が出来るだけでも、感謝しなければならないのだろうけれども。

   ∴

 東京駅のエキナカ、グランスタは、なかなか便利である。

 DEAN & DELUCAも入っているし、日本酒からワイン、焼酎、つまみの類まで面白い品揃えで楽しませてくれるはせがわ酒店―茹で卵のスモークは、車中の肴としては、とてもいいです―もあるし、大阪のいなり寿司、『豆狸』も嬉しい。

 この歓びの深さは、JR東日本の新幹線に乗る時に、より有り難みを増す。

 と、云うのもJR東海の、車内販売に比較して、東日本の車内販売は貧弱このうえないからである。アルコールを例にあげれば、東海ではミニボトルと氷、ミネラルウォーターで水割りを作ってくれるし、ワインもボトルで売っているが、東日本では、両方ともアルミ缶だけなのだ。味気ない事、この上ない。

 弁当やつまみなどでも、東日本の車内販売は、品揃えで見劣りがする。

 そういう状況だから、グランスタの充実は、私のように車中の飲食を楽しむ人間にとっては有り難いものだ。とはいえ、グランスタが出来るまでは、大丸の地下で買い物をしてから、改札を潜った事を考えると、堕落のそしりをまぬがれない気もする。大丸の食品売り場の売り上げは、大丈夫なのだろうか。

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