なぜイスラーム国の「過激思想」に吸い寄せられる人が後を絶たないのか

テロの連鎖を食い止めるために
末近 浩太 プロフィール
〔PHOTO〕gettyimages

後手に回る既存の権威と思想

よく知られているように、ISの「過激思想」はインターネットを中心に流通しているため、そのイメージに触れるのは簡単である。しかし、それが人びとにどのように受容されているのか(されていないのか)については、実地調査が必要となる。

筆者が注目してきたのは、各地の一般市民に加えて、「過激思想」の挑戦を受けているイスラームの伝統的な知の担い手である。

その背景には、「テロリスト」には接触できないという調査上の制約もあるが、何よりも、モスク、宗教系出版社、マスメディアの多くが「過激思想」をモニターしており、多くの情報を持ち合わせているということがある。

調査の結果は、今までのところ予想通りである。すなわち、インターネット上に溢れる「過激思想」のイメージに対して、既存の権威や思想は完全に後手にまわっている。

フランスでも、モロッコでも、ベルギーでも、筆者が耳にしたのは、事件の容疑者たちが本当にイスラームを信じていれば、そして、モスクにしっかり通っていれば、こんなことにはならなかった、という嘆きの声ばかりである。

既存の権威や思想の側は、「テロリスト」をこれ以上増やさないために、モスクの説法や新聞の社説などでISの「過激思想」をイスラームの教えに反するものと厳しく批判する努力を重ねている。これは、中東でも欧州でも共通して見られる営みであり、一般市民ができるテロ対策として重要な意味を持つ。

しかし、いくらイスラームの伝統的な知から逸脱していると批判されても、その既存の権威や思想からの逸脱こそがISの「過激思想」の訴求力であるため、こうした営みにどれほどの効果があるかは未知数である。筆者が言葉を交わした人びとも、効果が未知数であることを承知しながらも、それを続けていくしかないのが現状である、と悲壮感を隠しきれない様子であった。

クルアーン(コーラン)やイスラーム法に関する知識も、今やスマートフォンがあれば簡単に検索できる。そして、スマートフォン1つで、「過激思想」を簡単に生成・発信できるようになった。

既存の権威も思想も、インターネット上に氾濫する出自の怪しい情報やイメージのなかに埋もれてしまっている。

こうしたなかで、ISの「過激思想」は、単純なメッセージと鮮烈なイメージだけでなく、「究極の宣伝手法」であるテロリズムを通して、人びとの関心を集め続けている。