トランプよ、俺の歌を使うな! ニール・ヤングもR.E.M.も大激怒……お騒がせ男の「炎上選曲」が止まらない

アメリカ大統領選を10倍楽しむ
川崎 大助 プロフィール

「ニール・ヤング事件」

そして僕は、トランプのこの意図的な暴走が始まったきっかけは、ある事件のせいだったと考えている。折しも選挙戦の最初の最初、「選曲のせいで」ミソがついてしまったことがあったからだ。これを僕は「ニール・ヤング事件」と呼んでいる。

これが起きたのは、「R.E.M.事件」に先立つ昨年の6月16日。トランプは自らの大統領選出馬表明会見を、ニューヨークに彼が所有する「トランプ・タワー」でおこなったのだが、このときに彼の背後で流されていたのが、(よりにもよって)シンガー・ソングライターのニール・ヤングの代表曲のひとつでもある「Rockin' in the Free World」だった……というのが事件の端緒だ。

これもまた、アーティストにとっては悪夢のような光景だったに違いない。なぜならばニール・ヤングは、リベラル派ロッカーの巨頭であり、1969年のウッドストック・フェスにも参加した歴戦の強者だったからだ。

ニール・ヤング〔photo〕gettyimages

さらにこの「Rockin' in the Free World」が最初に発表されたのは89年の秋。当時始まったばかりのジョージ・H・W・ブッシュ大統領の政権運営に、筆誅ならぬ「歌誅」を加えるような言葉群がそこにはつらねられていた。

折しもこのころ、冷戦が終結した。レーガン政権下で米ソの歴史的合意がおこなわれた。つまり「共産主義の落日」によって歯止めを失った資本主義、言い換えると「新自由主義」が、地球中を覆い尽くすことが予見された、その瞬間にヤングは、この歌を放ったのだ。

「Rockin' in the Free World」のサビ部分では、タイトルどおり、「自由な世界でロックし続けよう(Keep on rockin' in the free world)」とうたわれる。ロックとは「自由」を希求するものだから、いついかなるときも、「人民の側」にあるべきものだからだ。

しかし「ロックする」人々の周囲に広がる、現在の「自由な世界(=資本主義陣営)」とは、決して理想的なものではない(弱肉強食の酷薄な世界であることが、サビ以外の部分で描写されている)。とはいえ……「俺らには『ロックする』ことぐらいしかできないじゃないか。残されてないじゃないか」――こんなアイロニカルな二重構造を持つ「名曲」こそが、この歌だった。