ヨーロッパの「理想」はメルトダウン寸前! なぜ現実への対処能力を失ったのか

ベルギー同時テロが照らし出すもの
笠原 敏彦 プロフィール

欧州危機の核心

130人の死者を出したパリ同時多発テロからわずか4ヵ月で起きたベルギー同時テロ。報道によると、パリのテロの首謀者であるアブデルハミド・アバウド容疑者はシリアで軍事訓練を受けた戦闘員90人と欧州に戻っていたという。

欧州にとって、テロと隣り合わせの日常は「ニュー・ノーム(新たな標準)」となってしまったようである。

頻発するテロと難民危機、ユーロ危機、イギリスのEU離脱問題……。欧州を怒濤のように襲う危機の連鎖が止まらない。そして、ポピュリスト政党や暴力的組織が台頭し、欧州をさらに不安定化させる。このサイクルこそ、危機の核心だろう。

20世紀の二つの世界大戦の舞台となった反省から生まれた平和構築プロセスの原点を振り返るために、著名なアメリカ人歴史家、トニー・ジャット氏が書いた『ヨーロッパ戦後史』(上下巻、みすず書房、森本醇訳)から、以下の記述を紹介したい。

〈 西ヨーロッパが今ではわれわれがよく知っている新たな進路を取ったのは、古き悪霊ども(失業、ファシズム、ドイツの軍国主義、戦争、革命)の復活を阻止するためだった。脱民族の、福祉国家の、協調的で平和なヨーロッパが生まれたのは、今日のヨーロッパ理念主義者たちがたわいのない回想で思い描くような楽観的・野心的・前進的な企図からではなかった。それは不安が産み落とした虚弱な赤ん坊だった。〉

欧州統合のプロジェクトは、「ポスト主権国家」の平和で繁栄する世界へ向けた人類の輝かしい将来像として脚光を浴びてきた。

しかし、今の欧州を覆うムードは不安であり、過去への逆戻りをいかに食い止めるかで苦闘している。

問われているのは、「未来への理想像」ではなく、「虚弱な赤ん坊」が背負わされた「過去の超克」という原点である。
 

笠原敏彦(かさはら・としひこ)
1959年福井市生まれ。東京外国語大学卒業。1985年毎日新聞社入社。京都支局、大阪本社特別報道部などを経て外信部へ。ロンドン特派員 (1997~2002年)として欧州情勢のほか、アフガニスタン戦争やユーゴ紛争などを長期取材。ワシントン特派員(2005~2008年)としてホワイ トハウス、国務省を担当し、ブッシュ大統領(当時)外遊に同行して20ヵ国を訪問。2009~2012年欧州総局長。滞英8年。現在、編集委員・紙面審査 委員。著書に『ふしぎなイギリス』がある。