ヨーロッパの「理想」はメルトダウン寸前! なぜ現実への対処能力を失ったのか

ベルギー同時テロが照らし出すもの
笠原 敏彦 プロフィール

空港で自爆したイブラヒム・バクラウィ容疑者は昨年6月、トルコがシリアとの国境付近で拘束して欧州へ国外追放。トルコはバクラウィ容疑者について「テロリストだ」(エルドアン大統領)とベルギー政府に伝えていたというが、容疑者は野放しになっていた。ベルギーのヤンボン内相は25日、「警察当局の誰かが過ちを犯した」と信じがたい釈明をしている。

また、テロの容疑者のうち2人は事件前から米国のテロ監視リストに載っていた。26日付の毎日新聞によると、米国はベルギーがパリ同時多発テロの出撃拠点となったことから、ベルギー当局に再三、捜査情報の提供などを求めたが、ベルギー側は多忙などを理由に応じていなかったという。

こうした失態ぶりに触れると、ベルギー政府はEU本部のお膝元にあるという事情も手伝ってか、欧州統合プロジェクトにより「変化し続ける統治構造」の下で、国民の財産と安全を守るという主権国家の最大の責任に対する感覚が麻痺していたのではないかと思わざるを得ないのである。

現実への対処能力の喪失

欧州諸国が直面する統治構造の劇的な変化については、ユーロ危機を思い出せば分かりやすいだろう。

この危機の根っこには、2002年に単一通貨ユーロを導入して金融政策は欧州中央銀行(ECB)に一元化したものの、財政政策は各国が独自に行うという、金融と財政を分離する矛盾した構造にあった。

危機に陥ったギリシャ政府は今も苦闘しているが、金融政策のオプションを失った中での危機対応は、通常の主権国家にとっては考えられない未知の領域だろう。

テロ対策に話を戻すと、EUはパリ同時多発テロを受けて今年1月、欧州警察機構(ユーロポール)にテロ対策センターを設置していた。しかし、機密情報を提供していたのは5ヵ国しかなかったという。

アブラモプロス欧州委員(内務担当)は「(加盟国間の)信頼関係が足りなかった」と率直に語っている。

国境検査なしに自由に移動するという「シェンゲン協定」(1995年発効)を導入しながら、その治安対策面では加盟国間の協力がなかなかうまくいかない。理想を追うEUと、現実に対処できないEU。二つのEUの姿を象徴する事実ではないだろうか。